迷惑ですから追いかけてこないでください!
 その日の夕方、正式に王太子殿下の訃報が発表されました。
 それと同時に行方不明になっている王子を王太子にすることが決まり、王子を見つけた者には報奨金が出ると、新聞には書かれていました。

 探している王子の名前はラルシード様。
 彼の足の裏には魔法の焼印で王家の紋章が押されているとのことです。

 王子が生きていると思われているのが謎ですが、何か確信があるのでしょうか。

 それから、王子の年齢はラシルくんと同じです。

 もしかして王家が捜している王子はラシルくんなのではないかと思ったり……。
 
 たぶん、いや、絶対、王子だなんてことはない。
 というか、あってほしくないです!

 預かった子供が王子様だったなんて、これからどんな目に遭うかわかりません。
 王太子にするために捜しているというけれど、実際どうするかはわかりませんものね。

 報奨金が出るということで、悪い人たちも近づいてくる可能性もあります。
 ラシルくんの足の裏を見れば分かることですが、今は覚悟ができていません。明日の朝に確認することにしましょう。

 今は他のことを考えることにします。

 状況を整理すると、ラシルくんのお母様は何者かによって連れ去られたと思われます。
 目的は今の段階ではわかりません。

 それと同時に、ラシルくんは女性に誘拐されています。
 その女性はポッコエ様の愛人でラシルくんをポッコエ様に預けたあとに亡くなっているようです。

 その人の死因を調べてみないといけませんね。

 となると、ポッコエ様にその人の名前を聞かなければなりません。
 私に話してくれるとは思えないので、キール様に聞いてもらおうと思うけれど、仲が良くないみたいですし、ポッコエ様がすんなり話してくれるかが謎です。

「……どうかしましたか?」

 大きなベッドが二つある部屋を用意してもらっていたのに、ラシルくんがどうしても同じベッドで寝たいと言うので、並んで横になっていました。
 眠ったかと思っていたのに、私の寝返りが激しいせいで起こしてしまったみたいです。

「起こしてしまってごめんなさいね。気にせずに眠っていてください」
「ぼくのせいで、ごめんなさい」
「……ラシルくんのせいとはどういうことですか?」
「だって、ぼくのせいでおうちをおいだされてしまったんでしょう?」
「違いますよ。もともと、ラシルくんが来ていなくても、家族はいつかは私を追い出すつもりだったんです。一人ぼっちで出ていくよりもラシルくんがいてくれて私はとても心強いと思っていますよ」
「そ、それならよかったです」

 部屋の中は暗いから、ラシルくんの顔はよく見えません。
 でも、声が弾んでいるように聞こえたのでホッとしました。

 ラシルくんは自分のお母様がもう亡くなったと思っています。
 彼には私しか頼れる人がいないのでしょうね。

「そういえば、お母様は知らない男の人に連れて行かれる前に、ラシルくんに何か言っていましたか?」
「うーんと」

 長い沈黙が続いた。
 急かしてはいけないと思って黙って待っていると、何か思い出したのかバタバタと手足を動かす。

「あの、あのですね、なにかあったときに、このかみをわたしてっていわれました」
「その紙は今、持っているんですか?」
「ご、ごめんなさい。しらないおんなのひとにむりやりつれてこられたこでおいてきてしまいました」

 ラシルくんは沈んだ声で答えました。
 私のように子供に慣れていない人間には言い方は悪いけれど、感情を表に出してくれるのはわかりやすくて助かります。

 知らない間に傷つけ続けるよりかは、その時にわかったほうが良いですもの。

「責めるつもりで言ったんじゃないんです。では、その紙がどこに置いてあるかは覚えていますか?」
「お、おぼえてます」
「では、誰かに取りに行ってもらわなければなりませんね」

 そう言った時、窓のほうからコツコツという音が聞こえてきた。
 カーテンを閉めているので、何かが窓に当たっているのだとしかわからない。

「な、なんでしょうか」
「様子を見てきます。ラシルくんはいつでも助けを求められるように、扉の前にいてくれませんか」
「だ、だめです! ほ、ほかのひとにみてもらいましょう!」

 ラシルくんはベッドから起き上がると、私の手を引きます。

「ここは3かいですから、もし、ひとだったとしたらあぶないです! と、となりのへやからみてもらいましょう!」

 私よりも冷静なラシルくんに頭が下がる思いです。

 ……というよりかは、私の危機感がなさすぎですね。
 気を引き締めないと!

「あけて、あけて! あたしはキールさまの遣いよカー! ワタシは悪者じゃないカー!」

 裏声のような耳に響く声だった。

「「カー?」」

 私とラシルくんは声を揃えて口に出したあと、顔を見合わせたのでした。

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