迷惑ですから追いかけてこないでください!
「あけて! あけて!」

 甲高い声の合間にカーカーという声も聞こえてきます。

「カラスのなきごえににてますね」

 ラシルくんは恐怖というよりかは、好奇心のほうが今は勝っているようです。

 キール様の遣いと言っていますが、その言葉を素直に信用して良いかはわかりません。

 とにかく、ラシルくんの言う通り、窓の外に誰がいるのか、別の部屋から確認してもらうことにしましょう。

 夜も遅い時間ではありましたが、フロントには人がいました。
 事情を話すと、警備員の人が外から確認してくれることになり、私とラシルくんはロビーで待ちます。

「た、大変です!」

 警備員の人は戻ってくるなり、喋るカラスがいるのだと、興奮した様子で教えてくれました。

「人の言葉を話すカラスがいるだなんて初めて聞きました」
「カラスはかしこいんです。あいさつとかならおぼえるときいたことがあります!」

 私が首を傾げると、ラシルくんが両手に拳を作って言いました。
 その目はキラキラと輝いていますから、子供らしく思えて安堵します。

 不安で怯えているよりかは、笑顔のほうが良いですよね。

 ラシルくんの頭を撫でたあと、警備員に尋ねます。

「カラスはなんと言っているのでしょうか」
「ミリアーナ様にお話があるそうです。キール様の使いだと言っていましたので、使い魔かもしれません」
「使い魔?」

 聞き慣れない言葉だったので聞き返すと、ラシルくんが教えてくれます。

「こういきぞくやおうぞくのひとなら、あいしょうがあえば、どうぶつをじぶんのけんぞくにできるんです」
「そうだったんですね」

 そんな話は聞いたことがありません。
 魔法は一部の人しか使えませんから、学園で習ったことはありませんし、両親に教えてもらなえかっただけでしょうか。

「わたくし共がキール様から聞いた話では、人と会話できるカラスだと聞いています。このとこを知っているのは少数の人間だけです」

 支配人が奥からやって来て、そう説明してくれた。

 この言葉を信じて、部屋に戻ろうかと考えていると、ラシルくんが私の服を引っ張る。

「カラスさんにあってみたいです」
「……わかりました。キール様のカラスならきっと大丈夫ですよね」

 今日初めて会った人だけど、今、頼れるのはキール様しかいないんですよね。

 不安はあるけれど、カラスが何をしに来たのか確認することにしたのでした。



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