迷惑ですから追いかけてこないでください!
「いつまで待たせるのカー!」

 窓を開けて中に入れてあげると、カラスは安楽椅子の背もたれ部分に止まって、文句を言いました。

 語尾のカーが気になります。
 やはり、カラスだからでしょうか。
 
「カラスさん!」

 ラシルくんは話すカラスが怖いというよりも好奇心が勝っています。真っ黒なカラスに笑顔で近づいていきました。

「近づかないでカー! 怒っている時はカーを言うように魔法をかけられてるカー!」

 カラスに威嚇され、ラシルくんは私の足にしがみついてくる。

「こ、こわいです」
「大丈夫ですよ。とにかく話を聞いてみましょうね」

 私たちがベッドの上に座ると、カラスが話し始める。

「怒って悪かったワ。でも、すぐに入れてくれないあなたたちが悪いのヨ」
「ごめんなさい。でも、私たちはあなたのことを知らないから、警戒せざるを得ないんですよ」
「まあ、しょうがないわネ。私のことを知っているのは、この宿屋では支配人と副支配人くらいしかいないからネ」

 私たちがいる間は、支配人と副支配人は交代でホテルに寝泊まりすると言っていました。

 そのことと関係があるのかもしれません。

「あの、一体、どういうご用件なのでしょうか」
「伝言を預かっているのヨ。そこの子供が危険かもしれないから、絶対に宿屋の外に出てはいけないって言っていたワ」
「……危険、ですか?」
「そうヨ。自分の子供に王家の紋章に似た焼印を押して、王子だと言い張る人がたくさんいるらしいワ。子供のいない人は誘拐までしているらしいノ」
「誘拐……」

 ラシルくんのことと関係があるのかと思いました。
 でも、彼が誘拐されそうになったのは、王太子が亡くなる前です。

 考えすぎでしょうか。

「それから、明日の朝にキールが来ると言っていたワ」
「……わかりました。ありがとうございます」
「そうそう、預かりものがあるのヨ」

 夜遅くの連絡になってしまったのは、仕事で忙しかったらしいです。
 ボディーガードをしてくれるというカラスのカーコさんが、足にくくりつけてあった手紙を読むように言うので読んでみます。

 手紙には魔法で公爵家の押印がされています。
 魔法の押印は偽造ができませんから、キール様のカラスで間違いなさそうです。

 手紙には、こう書いてありました。

『話したいことがあるので、明日の夕方にお伺いします。それまでは絶対に外に出ないでください。明日の朝に僕の側近、リッチマス卿からシルバートレイを受け取ってください。魔法が付与してありますので、危険から守ってくれるはずです。リッチマス卿とは面識がありますよね? できれば知らない相手とは宿屋の中でも会わないようにしてください』

 子供に焼印をわざわざ押したり、誘拐するだなんて信じられません!

 ラシルくんは文字が読めるらしく、私に尋ねてきます。

「シルバートレイってなんですか?」
「私もわからないです」
「あら、知らないノ? 貴族の女性にとても人気なのヨ」

 首を傾げる私たちにカーコさんが笑顔で教えてくれた。
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