迷惑ですから追いかけてこないでください!
ラシルくんをカーコさんに預けて、騒がしいフロントに向かうと、私の姿を見つけたポッコエ様は私を指差して叫びます。

「ミリアーナ! お前が連れて行ったガキはどこだ!?」
「ポッコエ様、他の人のご迷惑になりますから場所を移しましょう」

 フロントには他のお客様もいて、一斉に視線が私たちに集まっています。

 ラシルくんのことをこんなところで話されたら本当に困るんですけど!

「移動するなら、あのガキを連れてこい!」

 ああ、もう!
 本当に馬鹿なんですね!

 ちょっと黙ってもらいましょう!

 私は怒りに任せて、シルバートレイの平たい部分で彼の頭を叩きました。

 バイーンという間抜けな音と同時に、私の手や腕にしびれが走ります。
 使い慣れれば、こんな痛みはなくなるのでしょうか。

 ポッコエ様は叩かれた部分を押さえながら、涙目で訴えます。

「い、痛いぞ! 何をするんだ、ミリアーナ! 公爵令息にこんなことをするだなんてやってはいけないことだぞ!」
「公爵令息というのであれば、それ相応の行動をしてくださいませ」

 幸いなことに手のしびれはすぐにおさまったので、シルバートレイに目を向けます。
 攻撃された時に身を守るための魔法はかけられているようですが、攻撃した時の衝撃をおさえる魔法はかけられてないということでしょうか。

 護身用のシルバートレイで、自分の兄の頭を叩いたなんて知ったら、キール様は呆れてしまうかもしれませんね。

 でも、今回は許していただきたいです。

「俺のほうが身分が上なんだ! もっと敬えよ!」
「敬いたい気持ちはあるのですが、どうも素直になれないんです。申し訳ございません」
「謝るくらいなら、最初からそんなことをするな!」

 そう言って、ポッコエ様は私に手を伸ばしてました。

「何でしょうか」
「その武器を俺に渡せ」
「嫌です」
「いいから渡すんだ!」

 ポッコエ様が私の手からシルバートレイを奪い取ろうとした時、ジュウッという音が聞こえました。

「あっつ!」

 ポッコエ様はシルバートレイから手を放し、驚いた顔で自分の手を見つめています。
 ポッコエ様の指が真っ赤になっているのがわかり、私も驚いて彼を見つめます。

「や、火傷したじゃないか! どうなってるんだ!?」
「詳しいことはわかりませんが、誰かに奪われないように魔法がかかっているのかもしれません」
「魔法だと!? 大体、どうしてお前がそんなものを持ってるんだ!?」
「いただきものとしか言えません」

 移動してくれるのを待っていたら、時間がかかりそうなので勝手に場所を移動することにします。

「おい、待て! どこに行くんだ!?」
「火傷をしているのでしょう? お手洗いでまずは手の火傷を水で冷やしたらどうですか」

 宿屋の一階の奥にはお手洗いがあります。その近くに休憩スペースがあるので、そこで話すことに決めました。

「しょうがないな。ついて行ってやるか」

 ポッコエ様の呟く声が聞こえて、少しイラッとしましたが、そのすぐあとに「ああ、くそう! 頭と手が痛い!」と言う声も聞こえてきたので、少しだけスッキリしました。

 言葉で言ってもわかってくれないんですもの。
 暴力は良くないけれど、ケースバイケースですよね!

 
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