迷惑ですから追いかけてこないでください!

第一章

 今日のセブラスカ伯爵家は朝から騒がしかった。

 今日の夜、お姉様のお目当ての令息がいる公爵邸で夜会が開かれるためだ。

 お目当ての公爵令息というのは私の婚約者のことなのだけど、そんな姉を不謹慎だと止める人は、この屋敷内には誰一人いない。

「ちょっと、ミリアーナ! わたしの髪留めを知らない?」
「お姉様の髪留めがどこにあるかなんて私が知るわけがないではないですか。メイドにお聞きになったらいかがでしょう?」

 断りもなく部屋に入ってきたお姉様に、呆れた顔で言い返すと、お姉様はぷりぷりと怒り始めた。

「あなたから借りていた髪留めだから、あなたが知らないとおかしいのよ」
「なら、お姉様のものではありません! 私の髪留めです! また勝手に持っていって失くしたんですか!?」
「持っていってはいないわ。あなたに預けていたものを取りに来たのよ」

 お姉様との会話はいつも疲れます。

 今回も私に借りたと言いながら、自分のもののように言うから混乱してしまうのですよね。

「ほら、あなたが気に入っている花のコサージュの付いた髪留めよ」
「それは私に預けているものではなく、私の髪留めです!」
「ケチくさいことを言わないでちょうだい。妹のものは姉のもの。姉のものは姉のものっていうのは世の常識なんだから」

 そんな常識をお姉さま以外の口から聞いたことはありません。

 私が何も言わないでいると、お姉様は艶のある紺色の長い髪をなびかせて勝手にアクセサリーケースをあさり始めた。

 伯爵令嬢がする行動ではありませんよ。
 
 ……と、常識のない人に言っても無駄でしょうし、もっと、心に響くようなことを言わないと駄目ですね。

 お姉様に気づかれないようにため息を吐いた。

 お姉様は美人だが常識もないし頭も良くないです。私は賢いわけではありませんが、お姉様ほど悪くもないといったところです。

 私とお姉さまは外見がよく似ていると言われます。
 髪や瞳の色も同じ、紺色の瞳。身長は普通で瘦せ型という体形も似ているので、双子と間違われる時もあります。

 セブラスカ伯爵家の家族構成は、長男を可愛がる両親に長男のノバルス、長女のジョセアンナ。
 そして、次女の私、ミリアーナです。

 私の家は変わり者が多いと陰口を叩かれていると、私の婚約者から教えてもらって知りました。

 そのせいなのか、お兄様には嫁に来てくれる人はいないし、お姉様もつい最近、婚約者から婚約を解消されたばかりです。

 私は私で公爵令息とはいえども廃嫡される予定の人と婚約しているので、セブラスカ伯爵家は衰退していくに違いない。
 といいますか、没落してしまえば良いとまで思っています。
 
 
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