迷惑ですから追いかけてこないでください!
 ポッコエ様は怯えてしまったからか、すぐには口を割ってくれませんでした。
 仕方がないので、何度かティアトレイで腕を叩いていると、魔法がかかっているせいか、ティアトレイは勝手にポッコエ様を敵とみなし、叩かなくても少し触れただけで、ポッコエ様の体にしびれが走るようになったのです。

 あまり、やりすぎるのは良くありませんね。

 ポッコエ様が悲痛な声をあげます。

「お、お前は悪魔なのか!」
「自分を良い人間だと思ったことはありませんが、悪魔ではないと思います」
「なら、どうしてこんな仕打ちができるんだ? 血の通った人間がやることじゃない!」
「あなたに言われたくありません」

 ため息を吐いて答えてから、ポッコエ様を再度脅したところ、無事に女性の素性を確認することができました。

 愛人の名前はタファーナさんで、貴族ではなく平民の女性だそうです。
 街をぶらついている時に顔が好みだったので、ポッコエ様から話しかけたのだと言いました。
 タファーナさんは気の強い性格のため、ずけずけとものを言う態度が、余計にコッポエ様のお気に召したらしいです。
 この半年間くらいの関係であり、彼女はポッコエ様が公爵令息であることを知っていました。
 公爵令息なら護衛もいますし、子供を守れると思ったのでしょうか。
 用事があるからとラシルくんをポッコエ様に預けたあと、帰らぬ人となったそうです。

「お気の毒に……」
「どうせ、ガラの悪い奴らに喧嘩を売って殺されたんだろう」

 ポッコエ様は吐き捨てるように言いました。

 彼女を殺した犯人はまだ捕まっていません。 
 ラシルくんが誘拐されたことと、王太子の死は関係があるのかしら。

 とりあえず、カーコさんに話をしてキール様にこのことを伝えてもらいましょう。

「もういいか?」
「あともう一つ聞きたいことがあるのですが」
「な、なんだ。俺はタファーナのことは詳しくは知らないぞ!」
「お聞きしたいのはタファーナ様のことではございません。ポッコエ様のことです」
「俺のこと?」

 ポッコエ様は涙は流さないものの、声が震えています。

 そんなに怯えなくても良いと思うんですけど。
 これじゃあ、私が弱いものいじめをしているみたいに見えてしまうじゃないですか。

 私だって別に強くはないし、人の命を守るためにやっていることなんですもの。
 仕方がないでしょう!
 私を巻き込んだのはこの人なんですから!

 
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