迷惑ですから追いかけてこないでください!
 自分は悪くないと言い聞かせて、ポッコエ様に質問します。

「どうして、今更、ラシルくんを気にするのですか」
「うるさいな。世間が子供を捜しているということくらい知っているだろう! あの子供は年齢も同じくらいだし、もしかしたらというやつがあるかもしれないじゃないか! それに、タファーナは預かっていれば良いことがあるって言っていたしな」
「タファーナさんのしたことは誘拐ですよ」
「え?」
「ラシルくんはタファーナさんの子供ではありません。誘拐して連れてきた子供です。ですから、あなたは犯罪者の片棒を担いでいるのです」
「な、なんだって?」

 ポッコエ様は口をぽかんと開けて聞き返してきました。
 
 ラシルくんの母親をタファーナさんだと思い込んでいるので、誘拐してきたなんて思ってもいなかったみたいですね。
 
 まあ、タファーナさんも自分の子だと言って連れてきたでしょうし、ポッコエ様の中で、彼女は奔放なイメージがあるから、未婚で子供がいてもおかしくないと思ったのでしょう。
 ポッコエ様にとってはタファーナさんは浮気相手だから、彼女がどんな生活を送っていても気にはならないといったところでしょうか。

 その後、ポッコエ様がここに来たのは、ラシルくんが王子かもしれないので、足の裏を確認したのだと教えてくれました。

 足の裏を見たら諦めてくれるというので、ロビーで大人しく待っていてもらい、ラシルくんと会わせることにしました。
 売ったと言ってしまいましたが、ポッコエ様の目的がわかりましたので見せたほうが良いと判断したのです。

「ぼくのあしのうらをみたいんですか?」
「ああ」

 ラシルくんが尋ねると、ポッコエ様は期待に満ちた表情で頷きました。
 ラシルくんは不安そうな顔をしていますが、抵抗することはなくロビーのソファに座って靴下を脱ぎ、ポッコエ様に足の裏を見せました。

「あれ、おかしいぞ」

 ポッコエ様はラシルくんの足を乱暴に掴んで、何度も確認しました。

「この子は普通の子だったのか」

 ポッコエ様はがっかりした顔になると、ラシルくんの足から手を離しました。

 ラシルくんに、わかりやすい目印があることを王妃陛下が知らないはずがありませんし、王家が何の対策もしていないというわけもありません。

 ラシルくんの足の裏にある焼印は、彼に害を及ぼさない人にしか見えないものになっており、私は今日の朝にそのことをラシルくんから聞いていました。

「……もう、いいですよね?」
「そうだな。お前が子供をう」
「早く帰ってください」
「がっ!」

 嘘でも売ったなんて言ったことを、私の口からではなく、他の人の口から言われてラシルくんに知られるのは良くないと思った私は、ティアトレイを彼の顔に押し付けると、ポッコエ様は変な声を上げて逃げていったのでした。

「すごいです! ミリアーナさんはとてもつよいんですね!」
「このトレイのおかげですよ」
「それ、ティアトレイって言うんですね。カーコさんがおしえてくれました」
「そうなんです。でも、普通のティアトレイと違って、ちょっと不思議な力が働いているみたいなんです」

 
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