迷惑ですから追いかけてこないでください!
 夕方を少し過ぎた頃に、キール様が私たちの部屋までやって来てくれました。
 夕食はまだだということでしたので、部屋で一緒に食べながら話すことにしました。

「実は、あなた方を安全な所に移すように、とある方からお願いされているんです」
「……とある方というのは誰のことなのでしょう?」
「申し訳ないのですが、今は、とある高貴な方だとしかお伝えできません。ところで、ラシル様は自分の正体に気づいておられるのですか?」

 キール様の質問にラシルくんが首を傾げます。

「しょうたいって、どういうことですか?」
「いえ。気づいていらっしゃらないのであれば、それはそれで良いんです。それがあなたのお母様の望みなのでしょう」

 キール様は納得したように微笑みました。

 王家のしがらみに巻き込まれずに過ごしてほしいというのが、王妃陛下の願いだったのかしら。

 キール様はコーヒーを一口飲んでから、私に言います。

「宿屋では落ち着かないでしょうから、公爵家の別荘を使ってください。周りは森に囲まれていて、番犬代わりの狼がいます。狼に匂いを覚えてもらうまでは、絶対に外に出ないでください」
「おおかみさん!」

 狼と聞くと、大人は怖く感じるものだけど、ラシルくんの中では動物に会えるかもしれないと思う期待感のほうが大きいようです

 とある方というのは誰なのでしょう。
 国王陛下? 
 それとも、側室のワルーニャ様?

 もしくは、私の知らない誰かがいるのでしょうか。
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