迷惑ですから追いかけてこないでください!
「ラシルくん、私の判断が間違っていたら申し訳ございません」
「どうして、あやまるんですか?」

 キール様が帰ったあとに、自分勝手に動いてしまったことに気づいて謝ると、ラシルくんは不思議そうな顔をしました。

「ラシルくんの意見を聞いてもいないのに、勝手にキール様を頼ってしまったことを謝りたくて……。本当に申し訳ございません」
「きにしないでください。ぼくもキールさまをたよっているので、きかなくてもこたえはいっしょです」

 私がしょんぼりしているからか、ラシルくんは優しく手を握って言ってくれました。

 ラシルくんはとても優しいです。

 本当はお母様と引き離されて辛いはずなのに、私を気遣ってくれています。
 きっと、ラシルくんのお母様が人を思いやるという気持ちを教えていたんでしょうね。

「知り合いになったばかりだし、気を遣う気持ちもわかるけれど、ラシルは人に遠慮しすぎネ」
「ご、ごめんなさい!」
「責めるつもりじゃないのヨ。でも、あんたは子供なんだから、もっと泣きわめいたり駄々をこねたりしても良いと思うわヨ」
「時と場合によりますけどね」

 カーコさんの話に付け加えると、カーコさんも頷いてくれました。

 命の危険が迫っている時に駄々をこねられたら困りますから、程々にしてもらえると助かります。

「わかりました。あまり、がまんしないでいわないといけないことはいうことにしますね。いやだということもはっきりいいます!」
「はい。それでお願いします。遠慮なく言ってくださいね。私にできる限りのことはしますから」
「ぼくもミリアーナさんやカーコさんのためにがんばります」
「あら、あたしのためにも頑張ってくれるノ? 本当にいい子ネ」

 カーコさんに褒められたラシルくんは嬉しそうに笑ったのでした。

 そして、次の日の朝、私たちはデファン公爵家の別荘に移動することになったのです。


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