迷惑ですから追いかけてこないでください!
 身を隠す場所としてキール様が用意してくれたのは、森の奥深くにある公爵家の別荘の一つでした。
 3階建ての大きな木造の建物で、屋根裏部屋があるのか、屋根の間と間に窓が見えます。

 何か遭ってはいけないということで、使用人や護衛の兵士を公爵家が雇ってくれました。

 ラシルくんは最初は大きな家に戸惑ってはいたものの、駄々をこねれば私が困るとでも思ったのか、この家に住むことになった理由を聞いてくることはありませんでした。

 悪い人に追われていて、デファン公爵家が守ってくれているということはわかっているようなので、ここなら安全だと思ってくれたのかもしれません。

 平穏な日々が続き、このまま王子捜しは収束するかと思っていた頃、何者かが別荘に向かって近付いてきていると知らせてくれたのは、カーコさんでした。

 ラシルくんの勉強を見ている時に、私だけ別室に呼び出して話をしてくれたのです。

「あの野郎とミリアーナに良く似た女性が屋敷に向かっているわヨ」
「……あの野郎というのが誰だかわからないんですが、どちら様のことでしょう? それに、私に良く似た女性というのは?」
「遠目だからはっきりとは見えてないけど、ドレス姿で森の中を歩いていたワ。ミリアーナに似ているから驚いたの。あの野郎っていうのは、キールの兄のことヨ」
「ポッコエ様がこちらに向かって来ているんですか!?」

 別荘の周りは森に囲まれているので、窓から見ても見えるわけがありません。
 それなのに、思わず窓から外を見てしまいました。

「門兵に伝えておいたほうが良いですよね」
「それなら、もう伝えてあるから大丈夫ヨ」
「ありがとうございます。本当に助かります。でも、二人は何をしにここに向かっているのでしょうか」
「わからないワ。キールから連絡がないということは、彼も二人が来ていることを知らないみたいだし、ひとっ飛びして連絡してくるけど、ミリアーナ一人でだいじょうブ?」
「任せてください! シルバートレイを使っても良い相手がいなかったので、ちょうど実験台になる弱い人が来てくれたのは助かります」

 ここに来てから、キール様は自分の休みの日に顔を出してくれていました。

 その時に、シルバートレイの扱い方や、簡単な護身術を教えてもらったのです。
 といっても、こういう場合はこのような動きをすれば良いというお手本を見せてもらっただけなので、実践はまだです。
 相手が戦いに慣れた人なら、私が敵うわけがありません。
 でも、ポッコエ様は貴族の令息なのに、剣の鍛錬が嫌いでサボってばかりいたと聞いています。
 だから、前回もティアトレイで対処できたのだです。

 お姉様やポッコエ様が相手なら、昔よりかは、ティアトレイを使いこなせるようになったから迎え撃てると思います!

 それにしても、ポッコエ様はティアトレイの餌食になりたいみたいですね。
 お姉様も酷い場合はちょっと痛い目に遭ってもらいましょうか。

 
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