迷惑ですから追いかけてこないでください!
婚約者のポッコエ・デファン様は私よりも2つ年上でお姉様と同い年です。
ポッコエ様は公爵家の長男ですが、素行が悪すぎて両親から見放されているのですが、廃嫡されるという話は公にされていないだけでなく、本人も知らないのですよね。
三年前、婚約者がいない私のところにデファン公爵が大金を持ってやって来て、ポッコエ様の婚約者にならないかと言ってきました。
普通ならば公爵家がお金を持って来るだなんて怪しむところですが、お金に目が眩んだ両親は詳しい話を聞くこともなく婚約を成立させた。
話を聞かない両親に呆れた公爵閣下は、私にだけ事情を説明してくれたのです。
廃嫡するという話は、ポッコエ様が結婚する時に話すことになっています。廃嫡したあとは、結婚は取りやめ、閣下から慰謝料をいただけるそうなので、私は平民として暮らしていくつもりでした。
ポッコエ様をお姉様が狙ってくれているのは本当に有り難いです。私から奪ってくれた場合は、閣下も慰謝料を支払わずに済みそうですし、お金が無駄になりませんね。
「あったわ!」
お姉様はアクセサリーケースから髪留めを取り出すと、満面の笑みを浮かべる。
「今日のパーティーでポッコエ様を落としてみせるわ」
「そんな……! 落とすだなんて、どこに落とすおつもりですか!」
「は? 別にどこかから落とすとかじゃないわよ!」
お姉様は律儀にツッコミを入れると、私をびしりと指さす。
「ミリアーナ、あなたの婚約者はわたしがもらうわね!」
どうぞどうぞ!
そう言いたいところを我慢して、悲しげな表情を作って訴えます。
「そんな! お姉様、酷いです!」
「ふふ。昔から言っているでしょう? あなたのものはわたしのものなの」
「そんな!」
悲しむふりをすればするほど、お姉様は喜びます。
ああ、ぜひとも今日のパーティーで、お姉様が私からポッコエ様を奪ってくれますように!
そんな思いが表情に出てしまいそうなので、お姉様に背を向け、顔を覆って泣き真似をしたのでした。