迷惑ですから追いかけてこないでください!
「道連れにして何の意味があるのでしょう。 ラルシード様と亡くなった王太子殿下は仲が良かったのですか?」
「2歳の時ですから、お互いに記憶はないでしょうから仲が良いという理由ではないと思います」
「……そうでしたか」
「王妃陛下たちを道連れにという考えは彼女の願望でしょう」

 ラシルくんが亡くなれば、自分の息子が寂しくないと思うなんて変です。

 息子の分も元気に暮らしてほしいと思うものが普通なのじゃないのかしら。
 子供と幸せに暮らしている王妃陛下を羨む気持ちならわからないでもないですが……。

 ラルシード様を巻き込もうとしている気持ちは、母親になったことがないからわからないだけなのかしら。

 ――そんなことはないですよね。

 答えが出そうにないので、違う視点で考えてみることにします。

「側妃のワルーニャ様と国王陛下は政略的な結婚なのでしょう? それなのに、そこまでこだわる必要はありますか」
「側妃の考えていることはわかりません」
「陛下のことを好きになったということは考えられますか?」

 国王陛下のことが本当に好きで、自分を見てくれないから王妃陛下を恨んだというのなら許されることではないけれど、何となくは気持ちが理解はできます。
 
 自分が側妃の立場なら絶対にしないけれど、嫉妬は怖いといいますからね。

「そうかもしれませんし、折り合いが良くなかったので、ただ、亡きものにしたいだけなのか。今、側妃の周辺を洗っていますが、動きがバレると大変なことになるので、慎重に動いているため時間がかかっています」
「王妃陛下は今はどうされているのですか」
「……抵抗した時に頭を殴られたようで、記憶が曖昧な状況にあります。ラシル様の話をしても誰だかわからないと言うのです」
「……だから、ラシルくんを王妃陛下に会わせることができないのですね」

 ラシルくんに会ったら思い出せるかもしれません。
 でも、思い出せなかった時、ショックを受けるのはラシルくんです

 ラシルくんのことですから、私たちに心配をかけないように人のいないところで泣くのでしょう。

 悲しい思いをさせるかもしれないと思うと、会わせることは辛いです。

 ――でも。

「このまま会わせないというわけにもいきませんよね」
「わかっています。今、名前を出して反応を見ていますが、わざと、ラシル様の存在を忘れるようにしているのかもしれません」
「ラシルくんが死んでいると思い込んでいるということですか」
「生きていると言っても反応がありません。本人を目の前にしたら、また違うのではないかと思っています。ですが、問題があります」

 キール様が何を言おうとしているのかわかったので、私から話します。

「どちらを移動させるか、ですね」
「王妃陛下の体調はあまり良くありません」
「……ということは、ラルシード様に動いてもらうということでしょうか」
「側妃側が諦めてくれれば動きやすいのですが、まだ、彼らはラシル様を見つけようと躍起になっています。下手に動くのは危険です」
「……もう少し、様子を見るということですね」

 息を吐くと、キール様は眉尻を下げて頷くと続けます。

「国王陛下は二人を失うことを恐れていて、どちらかを動かす許可が下りないのです」


*****


 その後はこれからのことを話して、それぞれの部屋に戻りました。

 本当はラルシード様と王妃陛下を少しでも早くに会わせてあげたいです。
 きっと王妃陛下は、ラルシード様に会えば絶対に思い出してくれるはずです。

 でも、命の危険がお互いに出てくるのは確かです。

 キール様は姿を見えなくする魔法が使えるから、屋敷を出入りするのは簡単ですが、その魔法は本人しか無理だというから残念なところです。

 今、キール様たちは相手が言い逃れできない証拠を探しています。

 そして、側妃を罰しても隣国がロシノアール王国を攻められない理由を作らなければなりません。

 曖昧な理由では戦争になってしまい、ロシノアール王国は占領されてしまうからです。

 あとは国王陛下が私たちを信じて、望みを託してくれるかだけど、そう簡単にはいきませんよね。

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