迷惑ですから追いかけてこないでください!
 驚いている私たちを見てポッコエ様は笑ったあと、私に話しかけてきます。

「ミリアーナ、俺はお前との婚約を破棄してジョセアンナと結婚するつもりだ。だが、俺には愛人がいるんだ」
「……そんなことを偉そうに言われましても困りますわね」
「何だと?」
「失礼しました。続きをどうぞ」

 お姉様は愛人の存在を知らなかったのか、口をぽかんと開けて間抜けな顔をしたまま固まっています。

 ポッコエ様にはよく間抜けな顔をしていると言われていたけれど、私はいつもこんな顔をしているわけですね。
 どんな顔になっているか見れて良かったわ。

「愛人が子供を押し付けてきた。お前はその子の世話をしろ」
「婚約破棄は受けますが、子どもの世話はお断りします」

 冷たいと言われるかもしれませんが、見ず知らずの子供の世話ができるほど、子供が好きではないのですよ。
 
「ふざけるな! とにかく会ってみろ!」

 ふざけてるのはどっちなのでしょう。

 口に出す前に扉が開き、執事と一緒に入ってきたのは、薄汚れた服を着た小さな男の子でした。


「先ほどから話しかけているのですが、怖がって上手く言葉が紡げないようです」

 年配の執事は眉尻を下げて言うと、男の子の頭を優しく撫でます。

 黒色の髪に赤い瞳を持つ可愛らしい顔立ちの男の子です。
 十分な食事がとれていないのか、痩せ細っていて見るだけで痛々しい気持ちになってしまいます。
 着ている服も薄汚れたシャツにズボン姿で、良い生活をしているようには思えません。

 男の子は不安そうな顔で、私たちを見つめています。

 幼く見えるけど、会話はできるのかしら。子供の年齢は、見ただけではいまいちわかりませんので、本人に聞いてみることにします。

「こんにちは。私はミリアーナというのですが、あなたの名前と年齢を聞いても良いですか?」
「は……、はい。あ、あの、ラシルです。も、もうすぐ五歳になります」
「五歳ですか」

 男の子は何かに怯えているようで、体を震わせ始めました。

 もしかして、私の顔が怖いというわけではないですよね?

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