迷惑ですから追いかけてこないでください!
「あの、ポッコエ様、この子の両親はどこにいるんですか?」

 我に返ったお姉様が尋ねると、ポッコエ様は躊躇う様子もなく答える。

「父親は誰か教えてもらえなかったが、俺ではないことは確かだ。母親は娼館から身請けした女だ。小さな家を買って、そこに住まわせていた」

 普通の話をしている口調で話しているけれど、内容は酷いです。

「その女はその子供を俺の所に連れてきてから数時間後に殺された。預かってくれたら良いことがあると言っていたが、俺は子供は好きじゃない」
「それはわたしも同じ気持ちですわ。他人の子供なんて見るだけで苛立ちますもの」
「だから、ミリアーナに世話をさせようとしているんだ」

 ポッコエ様はにやりと笑うと、私を見て続けます。

「俺とジョセアンナの子育てもお前がするんだ。予行練習としてちょうど良いだろう」

 ちょうど良いわけがありません。

 子供を何だと思っているのでしょうか。
 それに、自分たちの子どもの世話はナニーを雇っていただきたいものです。
 もしかして、そんなお金もなくなることがわかって言っているのかしら。

 そんなはずはないわよね。
 そんなことを考えられる頭があれば、この子を私の所に連れてきたりしないでしょう。

「あ……う」

 男の子が執事の横から私の前に移動してきました。
 そして、私のドレスの裾を掴んで何か言おうとしています。
 

「どうかしましたか?」
「……ぼ、ぼく、どうなるんでしょうか」

 赤くて大きなくりくりの目はとても綺麗です。

 でも、どこかポッコエ様に顔の雰囲気が似ているからか、素直に褒められないのが悲しいです。

 でも、この子はこの子。
 ポッコエ様とは別ものとして考えなくてはなりません。
 だって、父親は別にいるようですし、男の子には罪はありませんからね。

「ラシルくん、私はミリアーナと申します。これからよろしくお願いしますね」
「……あ、あの、お母さまは、ど、どこにいるのですか」

 死んでしまったと伝えても意味がわかるのでしょうか。

 こんな小さな子に、死を理解させるのは難しいでしょうし、理解できたとしても、かなりのショックでしょう。

 今は誤魔化しておくことにします。

「ママは遠くに行ってしまいました」
「い、いつ帰ってきますか?」
「……ひゃ、100年後くらいです」
「……ひゃくねんご?」

 ラシルくんは大きく首を傾げました。

 そんなことを言われてもピンときませんよね。

 なんと答えたら良いのでしょう。
 下手に希望をもたせるようなことを言うのも違うような気がしますよね。 
 自然に理解できるようになるまでは、今はこんな言い方で良いということにしましょう。

「ええ。かなり先ですが、いつかは必ず会えますよ」
「そ、それまで、ぼ、ぼくは、どうしたら良いのですか?」
「それはポッコエ様が」
「おい、ミリアーナ」

 私の言葉を遮り、ポッコエ様はラシルくんの横に立つと、いきなり彼のお尻を蹴ったのでした。

< 6 / 36 >

この作品をシェア

pagetop