迷惑ですから追いかけてこないでください!

第二章

 次の日、ラシルくんと朝食をとっていると、お母様がやってきました。
 お母様はラシルくんを睨みつけると、すぐに私に目を向けます。

「食事を終えたら出ていくんですよ!」
「承知いたしました。今までありがとうございました!」


 急いで食事を終えると、片手で持てる大きさのトランクケースに荷物を詰められるだけ詰めて、ラシルくんと一緒に出発した。

 お姉様に挨拶はしていないけど、出ていくことになったのは私のせいではないので、挨拶がなかったと文句を言うのであれば、それはお母様のせいなので、私の知ったことではありません。

 手をつないで歩くラシルくんは、昨日よりも表情に明るさはあるものの、何か物音がするたびに体を震わせています。

 母親から虐待されていたわけではなさそうですし、一昨日と昨日のうちによっぽど怖い目に遭ったのだと思います。

 のどかな道をラシルくんの歩幅に合わせてゆっくり歩いていると、ラシルくんが話しかけてきます。

「て、てをつないでもよいですか?」
「かまいませんよ」
「ありがとうございます」

 照れくさそうにラシルくんは笑うと、私の左手を握ってきました。

 小さな手は強く握ると、骨が折れてしまいそうです。
 慎重に優しく握らなくっちゃ駄目ですね。

 幸先が見えないのに、なぜか冒険に旅立つみたいな高揚感があって不思議な気分です。

 一人で旅立つのではなく、ラシルくんが一緒だからでしょうか。

 そういえば、ラシルくんのお母様が生きているかどうかも調べないといけませんね。
 もしかしたら、お母様は無事に家に戻っていて、ラシルくんの姿がなくて探している可能性もあります。

 ラシルくんの家に戻るのは危険な気もするから、警察に相談してみましょうか。
 
「ラシルくんは警察に行こうと思うのですが」
「……あの、おかあさんがけいさつもよいひとばかりじゃないからってきをつけなさいっていっていたんです」
「そうでしたか」

 一体、どういう環境で暮らしてきたのでしょうか。
 警察が信じられないと言うと、ラシルくんを守るのは大変そうです。

 これからどうすれば良いのか悩んていた時、豪奢な馬車がこちらに走ってくるのが見えました。

「危ないから避けましょうね」
「はい!」

 馬車が一台通れるほどの道幅しかないため、私たちは道の横の草むらに入りました。
 すると、馬車は通り過ぎず、私たちの手前で停まりました。

 御者が扉を開くと、馬車から降りてきたのは黒い軍服を着た若い男性でした。

 
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