Bravissima!ブラヴィッシマ
プロローグ
ーー ぞくり

降り注がれる音のシャワーに肌が粟立ち、身体がカッと熱くなる。

全身を射抜かれるような音圧に、公平(こうへい)はただその場に立ち尽くし、ひたすら耐えていた。

(す、すごい……)

それしか言葉は出て来ない。
決して広くはない部屋だが、それにしてもこの響きは尋常ではなかった。

ヴァイオリンとピアノ、たった二人だけの演奏。
それがこうも自分を惹きつけ、しびれさせ、ダイレクトに心を揺さぶるとは。

パガニーニ作曲 ヴァイオリン協奏曲 第2番 第3楽章《ラ・カンパネラ》

19世紀を代表する歴史的天才ヴァイオリニスト、ニコロ・パガニーニが作ったこの曲は、「悪魔に魂を売って手に入れた」と言われるほど超人的な彼の演奏技術を、存分に見せつける難曲。

だが今目の前で演奏している二人は、そんなことを全く感じさせない。

難しい曲を上手く弾きこなしているな、などという甘い感想を一蹴するような、圧倒的な音楽性と美しい音色。

超絶技巧を我が物にし、そこから更に世界観を追求した演奏。

華やかに情熱的に盛り上がりテンポアップしていくヴァイオリンを、ピアノの伴奏が見事なまでに完璧にサポートする。

細かいパッセージで駆け上がっていく二人の音は、ひと粒ひと粒がクリアにピタリとはまっていた。

己の魂はどこまで持っていかれるのか……
バクバクと激しくなる心臓。
息をするのも、瞬きすらも忘れる。

これ以上の衝撃には耐えられない。
公平がそう感じた時、その場の空気を根こそぎかっさらうかのように、登り詰めた二人は最後の一音を響かせた。

音の余韻の中、二人は同時に宙を仰ぎ、ほうっとため息をつく。

再び静寂が戻ってくると、ようやく公平は息を吸い、ゴクリと生唾を飲み込んだ。

とてつもない瞬間に立ち会った

そう思いながら……
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