Bravissima!ブラヴィッシマ
「ん?音源を聴いて選ぶのか」
「そう。いい演奏があったら教えてくれ」
「公平はもう聴いたのか?」
「まだだ。まずは聖の意見を聞きたい」
聖がワイヤレスイヤホンを耳に着けるのを待ってから、公平は音源を再生した。
だがすぐに聖は顔をしかめる。
「これ、チャプターついてるか?」
ああ、と公平が答えると、聖はパソコンの前に来てマウスを操作し、次々と曲をスキップしていく。
どうやら出だしの部分だけを聴いて、次の曲へと飛ばしているらしい。
「おい、ちょっと!せめてもう少しくらい聴けって」
「必要ない。最初の音で人を惹きつけられない演奏が、どうやってそのあと曲の最後まで聴いてもらえるって言うんだ?」
淡々と答えながら、聖はカチカチとマウスをクリックし続ける。
あっという間に25曲目になった。
(はあ……、結局どれも気に入らないのか)
更に次の曲へと移っていく画面の表示を見ながら、公平は肩を落とす。
ついに最後の30曲目になった。
これ以上は飛ばせない。
「いいのはなかったか?」
そう言って聖に目を向けた公平はハッとする。
聖は目を見開いてじっと演奏に聴き入っていた。
(これ?えっと、30曲目か)
微動だにせず一点を見据えたまま、聖は音に集中している。
公平が黙ってその様子を見守っていると、やがて聖は大きく息を吐いたあと、ニヤリと公平に笑いかけた。
「これだ。決まり」
不敵な笑みを浮かべる公平に思わずおののいてから、公平はパソコンから音を流して聴いてみる。
チャプター番号30をクリックして流れてきたのは……
(この曲、まさか?!)
思わず目を見開くと、視界の隅で聖がふっと笑うのが分かった。
「公平。お前、こんなイスラメイ聴いたことあるか?」
そう尋ねる聖は、答えなど求めてはいない。
ある訳がない。
それほど今流れている演奏は、味わったことのない強烈なインパクトを与えていた。
バラキレフ作曲、東洋風幻想曲《イスラメイ》
世界一難しいピアノ曲を目指してバラキレフが作った名作。
プロでも弾くのが難しい超絶技巧の曲として知られており、有名なピアニスト達が「最も演奏困難な曲」と言及している世界最高難易度の曲。
それをこうも軽々とクリアに、綺麗な音色で緩急つけて弾きこなすとは。
これが難しい曲だとは思えないほど、華やかな美しさに心を奪われる。
圧倒的なテクニック、そして表現力と迫力。
信じられない思いで目を見開いたまま、公平は演奏に揺さぶられるがままになっていた。
最後の一音が消えると、ようやく公平は息をつく。
「生で聴きたい。このピアニスト、すぐにでもここに呼んで」
そう言う聖に、まだ半分放心しながら公平は頷いた。
「そう。いい演奏があったら教えてくれ」
「公平はもう聴いたのか?」
「まだだ。まずは聖の意見を聞きたい」
聖がワイヤレスイヤホンを耳に着けるのを待ってから、公平は音源を再生した。
だがすぐに聖は顔をしかめる。
「これ、チャプターついてるか?」
ああ、と公平が答えると、聖はパソコンの前に来てマウスを操作し、次々と曲をスキップしていく。
どうやら出だしの部分だけを聴いて、次の曲へと飛ばしているらしい。
「おい、ちょっと!せめてもう少しくらい聴けって」
「必要ない。最初の音で人を惹きつけられない演奏が、どうやってそのあと曲の最後まで聴いてもらえるって言うんだ?」
淡々と答えながら、聖はカチカチとマウスをクリックし続ける。
あっという間に25曲目になった。
(はあ……、結局どれも気に入らないのか)
更に次の曲へと移っていく画面の表示を見ながら、公平は肩を落とす。
ついに最後の30曲目になった。
これ以上は飛ばせない。
「いいのはなかったか?」
そう言って聖に目を向けた公平はハッとする。
聖は目を見開いてじっと演奏に聴き入っていた。
(これ?えっと、30曲目か)
微動だにせず一点を見据えたまま、聖は音に集中している。
公平が黙ってその様子を見守っていると、やがて聖は大きく息を吐いたあと、ニヤリと公平に笑いかけた。
「これだ。決まり」
不敵な笑みを浮かべる公平に思わずおののいてから、公平はパソコンから音を流して聴いてみる。
チャプター番号30をクリックして流れてきたのは……
(この曲、まさか?!)
思わず目を見開くと、視界の隅で聖がふっと笑うのが分かった。
「公平。お前、こんなイスラメイ聴いたことあるか?」
そう尋ねる聖は、答えなど求めてはいない。
ある訳がない。
それほど今流れている演奏は、味わったことのない強烈なインパクトを与えていた。
バラキレフ作曲、東洋風幻想曲《イスラメイ》
世界一難しいピアノ曲を目指してバラキレフが作った名作。
プロでも弾くのが難しい超絶技巧の曲として知られており、有名なピアニスト達が「最も演奏困難な曲」と言及している世界最高難易度の曲。
それをこうも軽々とクリアに、綺麗な音色で緩急つけて弾きこなすとは。
これが難しい曲だとは思えないほど、華やかな美しさに心を奪われる。
圧倒的なテクニック、そして表現力と迫力。
信じられない思いで目を見開いたまま、公平は演奏に揺さぶられるがままになっていた。
最後の一音が消えると、ようやく公平は息をつく。
「生で聴きたい。このピアニスト、すぐにでもここに呼んで」
そう言う聖に、まだ半分放心しながら公平は頷いた。