Bravissima!ブラヴィッシマ
「イスラメイちゃん、実はね。ドリームステージの反響がものすごく大きかったんだ」
「え、そうなのですか?」
「ああ。テレビや雑誌、インターネットでも大賑わいでね。今後もこのドリームステージは、定期的に続けていくことになったんだよ」

わあ、と芽衣は笑顔になる。

「それはおめでとうございます。小さな花ちゃんとか、お父さんのフルートとか、本当に心温まるステージでしたもんね。私も毎回、ホールに観に行きます」
「ああ。でも一番の反響はイスラメイちゃんなんだよ。それでね、遂にバレちゃったんだ」

は?と、途端に芽衣は真顔になる。

「バレた、とは?」
「イスラメイちゃんが、聖の動画の伴奏ピアニストだってこと」
「え……。ええー?!」

1拍置いてから、芽衣は仰け反って驚く。

ドリームステージに気を取られて、動画のことは頭の中から忘れ去っていた。

「どうしてバレたんですか?」
「それはだって、ドリームステージはテレビ放送もされたし、如月フィルの公式サイトでもアーカイブ配信されている。演奏しているイスラメイちゃんの後ろ姿が、動画のピアニストと同じだって、すぐに話題になったよ」

ヒー!と芽衣は両手を頬に当てた。

「ど、どんなコメントだったんですか?こんなに下手な小娘が、如月さんの伴奏してるのか、とか?」

まさか!と理事長は笑い出す。

「みんなイスラメイちゃんに感激してたよ。ドリームステージを観て、心から応援したくなったって。見事に弾き切った君に、感動させられたってね」
「そうなんですか?お恥ずかしい」
「何を言うかね。それでね、一番多かったコメントが、是非とも聖とイスラメイちゃんで、コンサートを開いて欲しいって」

は?と、芽衣は今日1番の驚きの声を上げた。

「いえいえいえ、如月さんはともかく私はダメですよ」
「どうして?」
「だって私、音大生ですよ?プロではないです」
「もう卒業したじゃないか。それにゴルフみたいに、プロテストがある訳じゃないんだから、誰だってコンサートを開いて構わない」
「それはそうですけど、とにかく私はダメです。如月さんの足を引っ張ってしまうので」

頑なに拒否すると、理事長は口調を変えた。

「では、こうしよう。如月フィルの理事長として、君にオファーする。聖の伴奏ピアニストとして、君を雇いたい。どうだね?この仕事、引き受けてくれるかね?」

えっ!と、芽衣は思ってもみなかった話の流れに戸惑う。

「イスラメイちゃん、4月からはどこかに所属したり、企業に就職が決まってるのかい?」
「いえ、それは全く」
「それなら、断るなんてことしないだろうね?ピアニストとして、こんないい条件の仕事はそうそうないと思うよ?ギャラだって、すんごい額を渡そう」
「す、すんごい?」
「ああ、それはもう、すんごい額だ」
「理事長がおっしゃると、迫力ありますね」

あはは!と理事長は楽しそうに笑う。

「まあ、とにかく一度やってみてよ。小ぢんまりでいいからさ。ギャラが入れば、好きな楽譜だってバンバン買えるし、大きなホールを貸し切って、フルコンピアノで思い切り練習したりも出来るよ?」
「えっ!それはすごい!」

食いつく芽衣に、理事長はニヤリとほくそ笑んだ。

「じゃあ、決まりね。すぐに会場を押さえよう。あ、ギャラは前払いでもいいよ?それから、如月シンフォニーホールが空いている時は、そこで練習していいからね」
「ひゃー!ありがとうございます!あのホールのピアノの音が忘れられなくて。また弾けるなんて夢みたい!」
「そうだろう?クククッ」

聖と公平は、そんな理事長を見ながら、悪代官……と心の中で呟いていた。
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