Bravissima!ブラヴィッシマ
やがてルームサービスでディナーが運ばれてきて、四人は乾杯する。

「私も今日こそお酒デビューしようかなー」

そう言う芽衣の手から、聖はシャンパングラスを取り上げた。

「あー!何するんですか」
「お前にはまだ早い。すぐに酔っぱらうのが目に見えてる」
「どうして如月さんにそんなこと言われなきゃいけないの?飲んでみなきゃ分からないでしょ?」
「分かるから言ってんだ」

むーっ!とむくれる芽衣と、そっぽを向く聖を、またしても公平がなだめた。

「はいはい、お二人さん。とにかく乾杯しよう。コンサート大成功、おめでとう!」
「おめでとうございます!」

公平と弥生の言葉に、聖と芽衣もようやく気を取り直す。

美味しいディナーを味わうと、芽衣は一気にご機嫌になった。

「はあー、美味しかった!もう夢みたい」

食後の紅茶を淹れると言って、公平と弥生が席を立つ。

すると突然ピアノの音がして、芽衣は振り返った。

弥生がピアノで、ハッピーバースデーを弾いている。

え?と戸惑っていると、公平が『 Happy Birthday!MEI 』とチョコプレートに書かれたホールケーキを運んできた。

「え、え?ええ?どうして?」

ジャーンと弥生が華やかに弾き終わり、「お誕生日おめでとう!芽衣」と拍手する。

公平と聖もそれに続いた。

弥生は皆がいるソファに戻って来ると、芽衣に話す。

「芽衣の誕生日なんですって公平さんに伝えたの。そしたら急遽ケーキを頼んでくれて」
「そうだったんですか。嬉しい!ありがとうございます」

芽衣は笑顔でろうそくを吹き消した。

「23歳、おめでとう!芽衣」
「ありがとう!弥生ちゃん。高瀬さんと如月さんも。誕生日にステージに立てて、こんなに豪華なお部屋で祝ってもらえて、本当に幸せです」
「では、芽衣さん。23歳はどんな1年にしたいですか?」

そう言って弥生がマイクを向ける仕草をする。

「23歳は……、色気を手に入れます!」

ぶっ!と聖がシャンパンを吹き出しそうになった。

「如月さん、私に失礼ですよ」
「どこがだよ?!」
「はあ?そのセリフも失礼です!」

弥生と公平は、顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。

「仲がいいのか悪いのか……」
「ほんとですよ。ね、公平さん。二人は放っておいて、ちょっとピアノ弾きません?」

弥生は公平の手を引くと、並んでピアノの前に座った。

弾き始めた前奏は、なんと『銀河鉄道999』

弥生はノリノリで歌まで歌い出し、公平も笑ってアドリブで弾き始める。

「ひゃー!かっこいい!」

二人で派手にゴージャスに弾き終わると、すかさず弥生は『ルパン三世』に移る。

公平がリズミカルな合いの手を入れると、弥生の演奏は一気に引き立った。

「公平さん、大人!色気ムンムン!」

顔を見合わせ、終始笑顔で生き生きと演奏する弥生と公平。

「色気……、どこで手に入るんだろう」と呟く芽衣と、またしても吹き出す聖。

公平と息を合わせて演奏を終えた弥生は、次はね、と考え込む。

「公平さんが弾いて。そうだな、ショパン!」
「ショパン?!なんで?」
「公平さんに似合うと思うから。ね?ほら」

芽衣は立ち上がると、公平を椅子の真ん中に座らせる。

公平は仕方ないとばかりに小さく息をついてから、鍵盤に両手を載せた。

ショパン作曲 ノクターン 第2番 変ホ長調

美しい音色に、弥生はたちまちうっとりと聴き惚れる。

離れたソファで聴いていた芽衣も、思わず感嘆のため息をついた。

「素敵……、高瀬さんの音」
「ああ。あいつらしい音だな。上品で繊細で、甘くて優しくて」
「本当に」

聖も、久しぶりに聴く公平のピアノに、改めて魅了されていた。
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