Bravissima!ブラヴィッシマ
極上のファーストキス
(ふう……。もう少しなんか飲もうかな)

シャワーを浴びてバスローブを着た聖は、アルコールを飲み直そうとリビングに行く。

広い部屋を横切り冷蔵庫に向かおうとして、ふとソファに目をやった。

「えっ、ちょっ、おい!」

とっくに部屋に引き揚げたと思っていた芽衣が、ソファにもたれて、ぐったりと目を閉じている。

(単に眠っているだけか?)

そう思って顔を覗き込む。

だが芽衣の頬は真っ赤に染まっていた。
ローテーブルの上には、シャンパングラス……

「おい、こら!まさか飲んだのか?!」

思わず肩を掴んで揺さぶると、芽衣は「うーん……」とけだるそうに目を少し開く。

「……ん?えっ!ギャー!ガイコツ!」
「アホ!誰がガイコツじゃ」

暴れてボカボカ胸を叩いてくる芽衣の手を掴み、聖は顔を近づけた。

「目を覚ませ!この酔っ払い。なんで酒なんか飲んだ?」
「だって深夜0時になって、シーンって静まり返るし、部屋も薄暗くて。誰もいないから、怖くなって……。お酒飲んだら気が紛れるかなって」
「またサン=サーンスかよ?呆れて言葉も出んわ」
「あんなことする如月さんが悪いんです!」
「あんなこと……?」

頬をピンクに染め、潤んだ瞳で見つめられた聖の脳裏に、あの夜のことが思い出される。

あの時も芽衣はこんなふうに酔っ払っていたっけ。
抱き上げて部屋まで運び、口移しで水を飲ませて……

そう。図らずもキスをしてしまったのだ。
だがその事実を、芽衣は知らないはず。

(え?じゃあ、あんなことっていうのは……)

すると芽衣がグイッと顔を寄せてきた。

「だから!合宿の時ですよ。深夜0時に部屋の照明を落として《死の舞踏》弾くなんて。それでなくても如月さんの音は、いつも一瞬でその場の空気を変えるんですからね?ガイコツに囲まれた気がして、もう恐ろしくて震え上がりましたよ」

人差し指を立ててジロリと睨んでくる芽衣は、お酒のせいか、怒っているというより拗ねたような可愛らしさがある。

「はあ、それにしてもなんだか気持ちいい。船に揺られてるみたい。レッスンで、お酒に酔ったように弾いてって言われたことがあって、その時はどんな感じかよく分からなかったんですけど。なるほど、こういう感覚なんですね」

ちょっと弾いてみよ、と言って芽衣は立ち上がる。

次の瞬間ふらっとよろめいて、聖は慌てて腕を伸ばして支えた。
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