Bravissima!ブラヴィッシマ
「危ない!」

慌てて手を伸ばして抱き留める。

「まだ酔ってるな。水でも飲んで酔いを……」

視線を合わせたが最後だった。

聖は芽衣の瞳から目をそらせない。

頭の中が真っ白になる。

「如月さん」
「……なに」
「前に言ってくれたでしょ?これからも、一緒に音楽を作っていこうって」

合宿の時だろう。
トラウマから抜け出せない芽衣に、確かにそう言った。

「お前は一人じゃない。お前のピアノは、いつも俺のヴァイオリンと共にある。そう言ってくれたでしょう?私、すごくすごく嬉しかった。今日改めて思ったの。私ね、如月さんの音が大好き。如月さんの音にずっと寄り添っていきたい。如月さんと一緒に演奏することが私の幸せなの。ずっとずっとそばにいたい」

腕の中に抱き留めたままの芽衣が、潤んだ瞳で聖を見上げる。

聖は自分の身体の奥深くから、何かが込み上げてくるのを感じた。

「一緒にいたいのは、俺の音?大好きなのは、俺じゃなくて音なの?」

芽衣は驚いたように首を傾げる。
口をついて出たその言葉に、聖自身も驚いていた。

「お前の幸せは、俺と一緒に演奏すること。それって、俺自身は別なの?」

すると芽衣は困ったように視線をそらして考え込む。

「うーん……。ちょっと今、アルコールで頭がちゃんと働かないんだけど。如月さん自身が別にいて、如月さんの音だけと一緒に演奏したら、怖くない?なんか、幽体離脱みたい」
「まあ、そうだろうな」
「やだ!またガイコツ来ちゃう」

そう言うと芽衣は辺りに目をやりながら、聖のバスローブの胸元をキュッと握ってきた。

聖は両腕の中に芽衣を閉じ込め、ギュッと抱きしめる。

「俺、責任取るわ」
「え?何の?」
「お前を深夜0時に怖がらせることになった責任」
「へ?どうやって?」
「毎晩0時にお前のそばにいる」
「……どうして?」
「ガイコツから守るため」

芽衣は酔いがさめたように、キョトンと聖を見上げた。

「如月さん、あんなにガイコツのことバカにしてたのに?」
「ああ。けど、これ以上お前を怖がらせたくない。だから責任取って毎晩そばにいる。それともう1つ。お前のファーストキスを奪った責任も」
「………………は?」

たっぷりと間を置いてから、芽衣は素っ頓狂な声を上げた。

「え、私だいぶ酔ってるな。聞き間違い?幻聴?それとも今、夢の中?」
「いや、現実だ。お前は今、俺の腕の中にいる。だけどファーストキスについては、身に覚えがない」
「それって『その心は?』っていうなぞかけ?正解は?」
「正解は……。酔って記憶のないお前にキスしたから」
「……は?………え?………はいー?!ちょっと、どういうことですか!」

芽衣は聖の腕の中でじたばたと暴れ出す。

「いくら私に色気がなくても、一応性別は女なんですよ?酔わせてキスするとか、犯罪ですからね!」
「違うわ!あ、でも違わなくもないか……」

自分がウイスキーのグラスを芽衣の近くに置いたから、と反省していると、芽衣は更に暴れて睨んできた。
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