Bravissima!ブラヴィッシマ
「はあ、もう、感動し過ぎて胸が一杯」

マンションに帰って来ると、芽衣は結婚式の余韻に浸りながらソファに座った。

「それを言うなら、泣き過ぎて顔がパンパン、じゃないの?はい、お水」

聖が差し出す水を「ありがとうございます」と受け取り、ひと口飲んでから芽衣はムッと拗ねる。

「顔がパンパンって、私の顔、パンじゃないですからね」
「クリームパンだったらうまそうだな」
「クリームたくさん詰まってそうで?って、違うから!」
「それにしても、よくそんな腫れ上がった目でピアノ弾けたな。見えてたのか?」
「ううん。視野も狭いし涙でぼやけるし、何も見えなかった」
「だろうな。アイコンタクト取ろうにも『どこ見てんだよ?』って思ったもん」

挙式のあとの披露宴で、聖と芽衣は生演奏を二人に贈った。

公平と弥生が好きだという、リストの《愛の夢》第3番

芽衣のピアノに合わせて奏でる聖のヴァイオリンはこの上なく甘美で、弥生は感激のあまりポロポロと涙をこぼし、そんな弥生の肩を公平がそっと抱き寄せていた。

「なんかもう、高瀬さんの愛が尊くて。弥生ちゃん、本当に幸せだろうな」
「ああ。公平は必ず彼女を大切にする。そういうやつだからな。きっと二人は幸せになれるよ」
「ふふ、嬉しい。私の大切な人達が結ばれて」
「芽衣、俺だって公平に負けてないからな。見てろ、俺も必ず芽衣を幸せにしてやる」
「えっと、なんか果たし状を突きつけそうな口調ですね?」
「ああ、あいつにだけは負けない」
「聖さん。なんかやっぱり、ずれてます」

そしてまたいつの間にか笑い合う。

二人の何気ない日々は、たくさんの幸せに満ち溢れていた。
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