Bravissima!ブラヴィッシマ
ジルベスターコンサート
12月31日

いよいよ、如月フィルハーモニー管弦楽団が夢に見た、初めてのジルベスターコンサートの日を迎えた。

チケットも既に完売。
当日のゲネプロから、芽衣はエンジン全開で演奏する。

「この曲はカウントダウンにしては長い。だけど必ず私が合わせてみせる。何も心配しないで、私の指揮を見ていてくれ」

マエストロの頼もしい言葉に、聖達も頷いた。

団員の誰もが真剣に、気持ちを一つにして挑む。

コンサートは22時開演。

つまりカウントダウンまでの2時間も、オーケストラは何曲も演奏しなければならない。

芽衣は出番を待つ間、舞台袖で聖達の演奏を見守った。

誰よりも身体を使い、マエストロの指示を団員全員に伝えながらヴァイオリンを弾く聖の背中に、この人はなんて大きな存在なのだろうと、芽衣は改めて聖の偉大さを感じる。

やがて時間になり、芽衣も観客の拍手に迎えられてステージに歩み出た。

「それでは、参りましょう。カウントダウンの曲はチャイコフスキー作曲《ピアノ協奏曲 第1番 第1楽章》です」

司会の公平が袖にはけると、一気にホールは静まり返った。

芽衣はピアノの前に座り、右手で左手の結婚指輪に触れた。

それは結婚してからの、ピアノを弾く前のルーティーン。

大きく深呼吸して気持ちを整える。

マエストロに頷くと、いよいよ曲が始まった。

余りにも有名な序奏部の冒頭。

ホルンの音がパーン!とホール中に響き渡り、ザン!と合いの手を入れるオーケストラが徐々に盛り上がった時。

その音を上回る力強さで、芽衣が渾身の和音を奏で始めた。

小柄な芽衣の、どこにこんな力が秘められているのだろう。

そう思いながら聖は芽衣の背中を見つめる。

小さな身体をめいっぱい使いながら、芽衣は魂を込めるようにピアノを弾いていた。

(芽衣、忘れるな。俺はいつも芽衣と一緒にいる。共に作ろう、極上の音楽を)

聖は芽衣に負けじと集中して、感覚を研ぎ澄まし、一音一音に向き合った。
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