Bravissima!ブラヴィッシマ
エピローグ
「聖さん、今日こそリベンジする!」

新年最初の、聖と芽衣の動画撮影日。

練習室で芽衣は意気揚々と楽譜を胸の前に掲げた。

ワックスマンの《カルメン幻想曲》

だが聖は首を振る。

「別にいいよ。他の曲にしよう」
「どうして?私、前よりは弾けると思うの。お酒飲んだ時、なんとなく感覚掴めたから。ね?試しに1回だけ合わせてくれない?」

可愛く首を傾げられたら、何も言い返せない。

仕方なく聖は楽器を構えた。

(なんとなくどころじゃない。完全に掴んでる)

芽衣の奏でるハバネラは、妖しいまでに魅惑的だった。

その色香に、聖の頭はクラクラする。

(こんな芽衣を動画に載せるなんて、考えられん)

弾き終えると芽衣は、どうかな?とばかりに聖を見つめた。

「これもボツ。投稿はしない」
「ええー?まだダメ?しょんぼり……。いつになったら色気が出せるんだろう」

そう言うと芽衣は、再びハバネラを妖艶に弾き始めた。

「おい、聖」

公平が小声で聖に耳打ちする。

「ほんとのこと言ってやれ。芽衣ちゃんがかわいそうだろ?」
「なんだよ?ほんとのことって。別に嘘は言ってない」
「じゃあ俺が芽衣ちゃんに言ってやる。芽衣ちゃんの弾くハバネラが余りに色っぽくて、動画に載せられない。色んな男が寄りついてくるのが心配だからってな」
「バカ!絶対に言うなよ?」
「やっぱり図星か。なんで言えないんだ?」

すると聖は、いじけたようにうつむいた。

「だって、なんかかっこ悪くて。俺、芽衣に小さい男だなって思われたくない」
「ぶっ!お前、いつの間に俺様キャラ崩壊したんだ?すごいなー、愛の力って。もう芽衣ちゃんにゾッコンだな」
「なんだよ。お前だってそうだろ?」
「俺はもともと結婚願望が強かった。弥生を溺愛するのも当然だ。けどまさかお前がこんなに早く結婚して、他の男を蹴散らすほど奥さんに溺れるとはなあ。いやー、人生何があるか分からん。さてと、俺も蹴られる前に退散しよう。じゃあな」

そう言って涼し気な顔で公平は部屋を出て行った。

ピアノを振り返ると、芽衣はひたすらハバネラを弾き続けている。

美しく艷やかに、大人の余裕を漂わせて。

(あー、もう!どこまで俺を翻弄するんだ)

「芽衣」

呼ばれて振り返った芽衣に足早に近づき、クイッと顎を持ち上げてキスをする。

芽衣は驚いたように目を見開いた。

「ちょ、聖さん!こんなところで何を……」
「仕方ないだろ?お前のピアノがそうさせるんだから」

え?と芽衣が首を傾げる。

「まだまだ出来てないんじゃないの?」
「そんな訳あるか」
「そうなの?」
「ああ」

聖は芽衣の髪を優しくなでてから、耳元でささやく。

「お前はいつだって最高だ。Bravissima!俺の女神」

そしてまた熱く唇を奪った。

(完)
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