Bravissima!ブラヴィッシマ
2度目の合わせの日がやって来た。
相変わらず控えめに「失礼します。よろしくお願いいたします」と芽衣は練習室に現れる。
だが、ひとたびピアノの前に座るとガラリと雰囲気が変わった。
この日の曲は、公平のセレクトで
サン=サーンス作曲《死の舞踏》
もとは管弦楽曲だが、サン=サーンス自らがヴァイオリンとピアノ版に編曲したものである。
「あれ?スコルダトゥーラなしなんだ」
楽譜を見るなり、聖が呟いた。
管弦楽曲版には独奏ヴァイオリンがあり、通常とは違う変則調弦する『スコルダトゥーラ』の指示がある。
だがヴァイオリンとピアノ版は、通常の調弦で書かれていた。
「ふうん……。ちょっと違いがあるんだな」
「さらう時間取るか?」
公平の問いに、いや、と聖は首を振る。
「俺は大丈夫だ。イスラメイは?」
聖がピアノを振り返ると、楽譜に目を通していた芽衣が顔を上げた。
「私も大丈夫です。あ、木村 芽衣ですけど」
「よし。じゃあ1発撮りいこう」
「はい、よろしくお願いします」
チューニングを終えた二人が息を合わせて演奏を始めると、一気にダークな世界が広がる。
午前0時に墓場に現れた死神達が、不気味に踊るワルツ。
おどろおどろしい雰囲気の中、二人の演奏は小気味よくダイナミックに盛り上がっていく。
(息ぴったりだな。かっこいい)
撮影しながら公平は聴き惚れる。
たった二人とは思えない音量と音圧だが、力任せではなく決して音も割れたりしない。
(たまたま弾いてる楽器が違うだけで、この二人は同じ感覚を持っているんだ)
音楽に対しての解釈、心地良いテンポ感、間の取り方など、様々な感性が似ている。
だからこそ、ぶっつけ本番でもこんなに息が合うのだろう。
いや、合わせることによってそれぞれの世界観が更に広がり、奥行きが生まれている。
一人よりも二人で演奏することによって、二倍どころではない、何倍も素晴らしい音楽を作り上げているのだ。
やがて静かに曲が終わりを告げると、二人でふっと息をついた。
「いやー、楽しいわ。俺こんなにもストレスなく合わせられる感覚、初めて」
聖が心底嬉しそうに言うと、芽衣もはにかんだ笑みを浮かべる。
「私もとっても楽しいです。もっと色々気をつけなければいけないところはたくさんあるのですが、とにかく楽しくて!」
「分かる。細かいことなんて気にする暇もないくらい、身体中がワクワクして勝手に手が動くんだ」
まさにそんな感じの演奏だったと思いながら、公平は二人に提案した。
「この1曲だけだと随分余裕だろうから、今日はもう1曲いいか?」
「おう!いいぜ」
ご機嫌で楽譜を受け取った聖は、目を落とした途端にげんなりする。
「また出たな、この鬼!」
「あれ、弾けないのか?」
「弾けるわ!」
サラサーテ作曲の《ツィゴイネルワイゼン》
聖はその楽譜をぶっきらぼうに譜面台に置くと、ヴァイオリンを構えて芽衣を振り返った。
「すぐいくぞ!イスラメイ」
「はい!木村 芽衣です」
そしてまたもや息の合ったダイナミックな演奏が始まった。
相変わらず控えめに「失礼します。よろしくお願いいたします」と芽衣は練習室に現れる。
だが、ひとたびピアノの前に座るとガラリと雰囲気が変わった。
この日の曲は、公平のセレクトで
サン=サーンス作曲《死の舞踏》
もとは管弦楽曲だが、サン=サーンス自らがヴァイオリンとピアノ版に編曲したものである。
「あれ?スコルダトゥーラなしなんだ」
楽譜を見るなり、聖が呟いた。
管弦楽曲版には独奏ヴァイオリンがあり、通常とは違う変則調弦する『スコルダトゥーラ』の指示がある。
だがヴァイオリンとピアノ版は、通常の調弦で書かれていた。
「ふうん……。ちょっと違いがあるんだな」
「さらう時間取るか?」
公平の問いに、いや、と聖は首を振る。
「俺は大丈夫だ。イスラメイは?」
聖がピアノを振り返ると、楽譜に目を通していた芽衣が顔を上げた。
「私も大丈夫です。あ、木村 芽衣ですけど」
「よし。じゃあ1発撮りいこう」
「はい、よろしくお願いします」
チューニングを終えた二人が息を合わせて演奏を始めると、一気にダークな世界が広がる。
午前0時に墓場に現れた死神達が、不気味に踊るワルツ。
おどろおどろしい雰囲気の中、二人の演奏は小気味よくダイナミックに盛り上がっていく。
(息ぴったりだな。かっこいい)
撮影しながら公平は聴き惚れる。
たった二人とは思えない音量と音圧だが、力任せではなく決して音も割れたりしない。
(たまたま弾いてる楽器が違うだけで、この二人は同じ感覚を持っているんだ)
音楽に対しての解釈、心地良いテンポ感、間の取り方など、様々な感性が似ている。
だからこそ、ぶっつけ本番でもこんなに息が合うのだろう。
いや、合わせることによってそれぞれの世界観が更に広がり、奥行きが生まれている。
一人よりも二人で演奏することによって、二倍どころではない、何倍も素晴らしい音楽を作り上げているのだ。
やがて静かに曲が終わりを告げると、二人でふっと息をついた。
「いやー、楽しいわ。俺こんなにもストレスなく合わせられる感覚、初めて」
聖が心底嬉しそうに言うと、芽衣もはにかんだ笑みを浮かべる。
「私もとっても楽しいです。もっと色々気をつけなければいけないところはたくさんあるのですが、とにかく楽しくて!」
「分かる。細かいことなんて気にする暇もないくらい、身体中がワクワクして勝手に手が動くんだ」
まさにそんな感じの演奏だったと思いながら、公平は二人に提案した。
「この1曲だけだと随分余裕だろうから、今日はもう1曲いいか?」
「おう!いいぜ」
ご機嫌で楽譜を受け取った聖は、目を落とした途端にげんなりする。
「また出たな、この鬼!」
「あれ、弾けないのか?」
「弾けるわ!」
サラサーテ作曲の《ツィゴイネルワイゼン》
聖はその楽譜をぶっきらぼうに譜面台に置くと、ヴァイオリンを構えて芽衣を振り返った。
「すぐいくぞ!イスラメイ」
「はい!木村 芽衣です」
そしてまたもや息の合ったダイナミックな演奏が始まった。