Bravissima!ブラヴィッシマ
動画は投稿するたびに反響を呼び、フェイドアウトどころかますます注目を浴びる。
リクエストも多く、公平はその中から曲を選んで楽譜を用意した。
3度目の合わせで提案したのは、ヴィエニャフスキ作曲の《スケルツォ・タランテラ》
聖はまたしても「鬼!」と公平を睨んでから、見事に弾き切った。
「もう、超絶技巧にチャレンジ!って名前の企画にしか思えん」
演奏後、ぶつぶつと聖が小言を言う。
「まあまあ、そう言わずにさ。お前が余りに鮮やかに弾くもんだから、もっと聴きたいって思うんだよ。でもさすがにそろそろ違うテイストの曲もやりたいな」
そう言って公平は、動画のコメント欄でリクエストされた曲名を聖と芽衣に見せた。
「モンティの《チャルダッシュ》とピアソラの《リベルタンゴ》は、かなりの数のリクエストがあったから、いずれやりたい。あとは、これなんかどうだ?ワックスマンの《カルメン幻想曲》」
「え、サラサーテじゃなくてワックスマンを指定してるのか?」
「ああ。ぜひともワックスマンの方を聴きたいってさ」
《カルメン幻想曲》は、言わずと知れたビゼーの歌劇《カルメン》に登場するメロディをパラフレーズした作品で、サラサーテ編曲のものよりワックスマン編曲の方が難易度は高いと言われている。
「なんか俺、イメージが定着してる気がする。『超絶技巧野郎』って」
「あはは!上手いこと言うな、聖」
「誰のせいだよ?!」
睨んでくる聖をかわして、公平は芽衣に尋ねた。
「君は?何かやりたい曲ある?」
「いえ!そんな。私の意見など取るに足りません」
「そんなことないよ。好きな作曲家とか、得意なジャンルとかある?」
「あの……、特にないんです」
消え入りそうな声で言うと、聖が訝しそうな表情を浮かべた。
「やりたい曲も思いつかないのか?」
「はい。先生に出された課題をこなすのに精一杯で……」
「課題ばっかりやってると、嫌気が差して脱線したくなるだろ?全然違う曲を思いっ切り弾きたくなったり」
「いえ、そういうのは、あまり」
「はあ?お前、いつも何やってんの?」
「ですから、課題を……」
どんどん身を縮こめる芽衣に、聖の顔はますます険しくなる。
「それでどうやって音楽に向き合ってるんだ?」
「……すみません」
「別に責めてる訳じゃない。お前の音楽に対する想いを聞いてるんだ。どんなピアニストになりたいと思ってる?何を表現したくて弾いてるんだ?」
「あの、それは……」
気圧された様子の芽衣に、公平がとりなした。
「まあ、いいじゃないか、聖。ここは大学じゃない。それに聖の演奏に、これ以上ないほど良い伴奏をしてくれている。これからもよろしくね、芽衣ちゃん」
「はい、こちらこそ。でもあの、役立たずと思われた時はすぐにでもクビにしてください」
芽衣の言葉に、聖は更にムッとする。
「そんな中途半端な気持ちで演奏してるのか?」
「聖!」
公平は立ち上がると時計に目をやって聖を急かした。
「ほら、オケのリハ始まるぞ。コンマスが遅れる訳にはいかない。早く行け」
そうして半ば強引に聖をドアへと促した。
リクエストも多く、公平はその中から曲を選んで楽譜を用意した。
3度目の合わせで提案したのは、ヴィエニャフスキ作曲の《スケルツォ・タランテラ》
聖はまたしても「鬼!」と公平を睨んでから、見事に弾き切った。
「もう、超絶技巧にチャレンジ!って名前の企画にしか思えん」
演奏後、ぶつぶつと聖が小言を言う。
「まあまあ、そう言わずにさ。お前が余りに鮮やかに弾くもんだから、もっと聴きたいって思うんだよ。でもさすがにそろそろ違うテイストの曲もやりたいな」
そう言って公平は、動画のコメント欄でリクエストされた曲名を聖と芽衣に見せた。
「モンティの《チャルダッシュ》とピアソラの《リベルタンゴ》は、かなりの数のリクエストがあったから、いずれやりたい。あとは、これなんかどうだ?ワックスマンの《カルメン幻想曲》」
「え、サラサーテじゃなくてワックスマンを指定してるのか?」
「ああ。ぜひともワックスマンの方を聴きたいってさ」
《カルメン幻想曲》は、言わずと知れたビゼーの歌劇《カルメン》に登場するメロディをパラフレーズした作品で、サラサーテ編曲のものよりワックスマン編曲の方が難易度は高いと言われている。
「なんか俺、イメージが定着してる気がする。『超絶技巧野郎』って」
「あはは!上手いこと言うな、聖」
「誰のせいだよ?!」
睨んでくる聖をかわして、公平は芽衣に尋ねた。
「君は?何かやりたい曲ある?」
「いえ!そんな。私の意見など取るに足りません」
「そんなことないよ。好きな作曲家とか、得意なジャンルとかある?」
「あの……、特にないんです」
消え入りそうな声で言うと、聖が訝しそうな表情を浮かべた。
「やりたい曲も思いつかないのか?」
「はい。先生に出された課題をこなすのに精一杯で……」
「課題ばっかりやってると、嫌気が差して脱線したくなるだろ?全然違う曲を思いっ切り弾きたくなったり」
「いえ、そういうのは、あまり」
「はあ?お前、いつも何やってんの?」
「ですから、課題を……」
どんどん身を縮こめる芽衣に、聖の顔はますます険しくなる。
「それでどうやって音楽に向き合ってるんだ?」
「……すみません」
「別に責めてる訳じゃない。お前の音楽に対する想いを聞いてるんだ。どんなピアニストになりたいと思ってる?何を表現したくて弾いてるんだ?」
「あの、それは……」
気圧された様子の芽衣に、公平がとりなした。
「まあ、いいじゃないか、聖。ここは大学じゃない。それに聖の演奏に、これ以上ないほど良い伴奏をしてくれている。これからもよろしくね、芽衣ちゃん」
「はい、こちらこそ。でもあの、役立たずと思われた時はすぐにでもクビにしてください」
芽衣の言葉に、聖は更にムッとする。
「そんな中途半端な気持ちで演奏してるのか?」
「聖!」
公平は立ち上がると時計に目をやって聖を急かした。
「ほら、オケのリハ始まるぞ。コンマスが遅れる訳にはいかない。早く行け」
そうして半ば強引に聖をドアへと促した。