Bravissima!ブラヴィッシマ
動画撮影
如月(きさらぎ)シンフォニーホール》

如月建設が手がけた、大型パイプオルガンも備えた客席数2000席余りのクラシック専用の音楽ホール。

高瀬 公平は、その如月シンフォニーホールを拠点として活動している《如月フィルハーモニー管弦楽団》の事務局長をしていた。

母体となる如月建設は、設計・施工・研究を全て自社で行い、高層ビルや公共施設、都市開発などの大規模事業のほかに、道路やダムなどの土木工事、鉄道といった社会インフラまで幅広く手掛けるゼネラル・コントラクター、いわゆるゼネコンだ。

その中でも、単体売上高が2兆円を超える如月建設は、スーパーゼネコンと呼ばれている。

クラシック音楽好きな如月建設の会長が25年前に設立したこのオーケストラで、今月から新たにコンサートマスターを務めることになったのが、会長の孫に当たる如月 (ひじり)、27歳。

公平と同じ国内トップの音楽大学を卒業した同級生で、公平はピアノ、聖はヴァイオリンを専攻していた。

二人とも学内での成績はトップで、聖に頼まれて公平がピアノ伴奏をすることが多かったことから、二人は気心の知れた仲だ。

卒業後、聖は如月フィルにヴァイオリニストとして、公平は裏方の事務局員として就職した。

音大を卒業後は、音楽家に……
もちろん公平もその想いは強かった。

だが、いくら音大では成績トップであっても、音楽家として食べていけるほど世の中は甘くない。

天才や神童、若いカリスマ演奏家など、実力や才能に溢れたピアニストはたくさんいる。

そんな一流の人達の演奏を前にすると、自分などなんとちっぽけなことか。
公平は冷静に己の立場を理解した。

演奏は出来なくても少しでも音楽に携わり、聖のサポートをしていきたい。
そう思いながら、如月フィルの事務局員として懸命に仕事に向き合い、半年前に異例の若さで事務局長となった。

ピアノは仕事にはせず、自分の弾きたい時に弾きたい曲を気ままに演奏して楽しんでいる。

そして自分とは違ってプロの演奏家の道を歩く聖を、公平は誰よりも近くで応援していた。

楽器は違えど、聖のヴァイオリンを聴いていると、自分とは全く別次元の才能だとまざまざと思い知らされる。

(聖は間違いなく本物だ)

今はまだ如月フィルの知名度もそこまで高くはない。

けれどいつの日かきっと、世界的にも注目を浴びるオーケストラにしてみせる。

公平はその未来を思い描き、事務局長として何が出来るかを常に考えていた。
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