Bravissima!ブラヴィッシマ
「高瀬さん、貴重なリハーサルを見学させてくださって、本当にありがとうございました」

ホールを出ると、芽衣は改めて公平に礼を言う。

「どういたしまして。楽しんでもらえた?」
「はい、それはもう」
「あはは!楽しんだっていうよりは、号泣してたって感じだけど」
「う……、お恥ずかしい」

芽衣は思わず両手で頬を押さえる。

「時間あるなら、もう少しここにいたら?」
「いえ、大学に戻って練習しますので」
「そう。でも気をつけてね。ものすごく目が腫れてて真っ赤だから」
「あ、はい。なるべく下を向いて歩きます」

小さくなる芽衣に、公平はまたしてもクスッと笑みをこぼした。

「それでは、ここで失礼いたします。高瀬さん、今日もお世話になりありがとうございました。如月さんにもよろしくお伝えください」
「うん、分かった。また動画撮影の日を連絡するね」
「はい、お待ちしています。それでは」

お辞儀をしてから踵を返す芽衣を、公平は思わず呼び止めた。

「あ、芽衣ちゃん」
「はい、なんでしょうか?」
「君、ちゃんと音楽が好きだよ」

思わぬ公平の言葉に、芽衣は「は?」と固まる。

「安心して。君の中にはちゃんと音楽がある。感動する心も、溢れ出る涙も、人一倍ある。君は必ずいいピアニストになるよ」

じゃあね!と手を挙げてホールへと戻る公平を、芽衣はポカンとしたまま見送っていた。
< 22 / 145 >

この作品をシェア

pagetop