Bravissima!ブラヴィッシマ
「お疲れ、聖。芽衣ちゃん帰ったよ」

リハーサルが終わり、ザワザワと皆が舞台から引き揚げていく中、公平は聖に声をかけた。

「彼女、お前の演奏にいたく感激してた」
「知ってる。ドン引きするくらい泣いてたのが見えた」

だろうな、と公平は苦笑いする。

「聖、彼女はさ。口ではああ言ってたけど、ちゃんと自分の中に表現したいものも、奏でたい音楽も持ってる。俺はそう思うよ」
「いきなり何だよ」

そう言ってから、聖は視線をそらして考え込んだ。

「じゃあ、あの子はなんであんなことを言ったんだ?好きな作曲家もやりたい曲もない。俺の伴奏ピアニストも、いつでもクビにしてくれ、なんて。音楽家として、食らいついていこうって気概がまるで感じられない。あんな考え方でこの先やっていけるほど、音楽の世界は甘くないはずだろ?」
「そうだけど。自覚はなくてそう言ってるだけだと俺は思う」

聖は憮然としたまま口をつぐむ。

「まあ、ゆっくりやっていこうよ。彼女がお前の伴奏ピアニストとして申し分ないことは確かだろ?」
「……今のところはな」
「そういう言い方するなって。俺はずっとお前の演奏を聴いてきたし、学生時代は伴奏もやってたからよく分かる。彼女の伴奏で弾くお前は、間違いなく生き生きしてる。一人で弾く時より何倍もな」

ポンと聖の肩に手を置くと、公平は歩き出す。

「じゃ、また撮影スケジュール決まったら知らせるよ」
「ああ」

聖はその場に佇んで公平の背中を見送った。
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