Bravissima!ブラヴィッシマ
キッチンで料理をしながら、公平は聞こえてくる芽衣のピアノに感心する。

(ほんとに基礎を徹底的にやるんだな。恐ろしいほど丁寧に正確に、しっかり時間をかけて)

芽衣はスケールやアルペジオを、リズムやアーティキュレーションや速度を変えてひたすら弾き続けていた。

その横顔は、もはや周りのことなど一切目に入っていないようだった。

単調なその響きが、徐々に音楽的になっていく。

クレッシェンドで大きくしたり、アクセントでメリハリをつけたり。

ジャズっぽくスウィングしたり、アルゼンチンタンゴのリズムでキレを良くしたり。

(お、今度はシャンソン風?その次は、ブラジルのサンバか。まるで音階の世界旅行だ)

公平がパスタやスープ、サラダを作り終えても、聖のヴァイオリンと芽衣のピアノの音は止まない。

心得てますとばかりに、公平は黙って先に食べることにした。
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