Bravissima!ブラヴィッシマ
何度聴いてもすごい。
すごいと分かっていても感動する。

この曲の楽譜の音を、1つも取りこぼさず弾ける人などいないと思っていた。

体格に恵まれた、手の大きな男性しか弾きこなせないと諦めていた。

だが今目の前にいる芽衣は、小柄な女の子だ。

どこからこんなパワーが湧いてくるのか?
どうすればこんなにも1本1本の指が正確に速く、そして力強く動くのか。

もう何かの魔法だとしか思えない。

エレルギーと豊かな音色に圧倒され、感嘆のため息しか出て来ない。

芽衣は最後までパワーを切らさずに弾き終える。

静寂が戻ると公平は大きく息を吐いた。

「すごい、もうそれしか言えない」

ゆっくりと拍手すると、芽衣は照れたように笑った。

「オクターブグリッサンド、どうやってやってるの?小指、痛くない?」
「普通に、例えば今やると痛くて止まっちゃいますが、演奏中はアドレナリンのおかげでなんとか。なので曲の中でしか出来ません」
「へえ、なるほど。ね、手を見せてもらってもいい?」
「ええー!ダメです」

芽衣は慌てて両手を背中の後ろに隠した。

「どうして?」
「だって、ネイルもしてないし爪もちんちくりんで、指はカチコチだし……。ちっとも綺麗じゃないので恥ずかしいです」
「そんなことないよ。一流ピアニストの手だ。ね?見せて」
「やだ!」
「ふーん、じゃあ俺も二度と芽衣ちゃんと連弾しないもんね」

え……、としょんぼりしてから、芽衣はおずおずと手を前に戻した。

「じゃあ、ちょっとだけですよ?」
「うん」

公平は優しく芽衣の両手を取る。

「やっぱり指が長い。キュッと締まってて綺麗だね」
「そんな。ゴツゴツして、骨ばってますよね?お恥ずかしい」
「そんなことない。ピアノに愛される手だよ」

そっと芽衣の指に自分の指を滑らせる公平に、芽衣はドキドキしてうつむく。

こんなにも誰かにじっくりと手を見られるのは、初めてだった。

しかもこんなふうに、男性に手を握られたこともない。

「どんなに過酷な練習をこなしてきたか、手を見れば一目瞭然だな。本当に君はすごいよ」

公平は真面目に話しているのに、ドキドキしている自分が恥ずかしい。

芽衣は真っ赤になった頬を押さえることも出来ずに、じっと視線を落として固まっていた。
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