Bravissima!ブラヴィッシマ
2階の部屋で、聖は感情のままにヴァイオリンを弾いていた。

脳裏には、つい今しがた見たばかりの公平と芽衣の姿が焼きついている。

1階から《イスラメイ》が聴こえてきた時、聖は練習の手を止めて吸い寄せられるように廊下に出た。

吹き抜けからリビングを見下ろし、芽衣の弾く鮮やかなピアノに酔いしれる。

(さすがだな。何度でも聴きたくなる)

聴き終えて満足気に部屋に戻ろうとしたが、ふとその後の公平と芽衣のやり取りが気になって振り返った。

向かい合い、芽衣の手を取って何かをささやく公平の優しい声。

カッと身体が熱くなり、急いで部屋に戻った。

気持ちを落ち着かせようとヴァイオリンを構える。

大きく息を吸い、目を閉じて歌い上げる美しい曲。

弾き終えて、思わず自嘲気味に笑った。

(嫉妬にまみれたドロドロの曲じゃないか)

マスカーニ作曲の歌劇《カヴァレリア・ルスティカーナ》の間奏曲

美しい旋律ながらも、男女の愛憎劇の中で演奏されるこの曲を弾くとは。

(俺は何かに嫉妬している?彼女の才能にか?それとも、公平に?)

そんな訳がないと思いつつ、かき乱される心を持て余す。

「くそっ」

思わずクシャッと髪に手を入れた時だった。

コンコンとノックの音のあと、公平の声がする。

「聖?今いいか」
「ああ」

何でもないような素振りで答えると、公平がドアを開けて入って来た。
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