Bravissima!ブラヴィッシマ
「珍しいな、お前がマスカーニ弾くなんて。どうかしたか?」
「いや、別に。単なる気まぐれだ」
「ふーん。ま、超絶に美しかったけどな。ところでさ、ちょっと話しておきたいことがあるんだ」
「なんだ?」

聖は楽器を置いて、公平とソファに向かい合って座った。

「実は、芽衣ちゃんのことなんだ。前からお前に話そうと思ってたんだけど、なかなかゆっくり時間が取れなくてな。聖は彼女のことで、何か気になることあるか?」
「何かって、例えば?」
「うん、その……。演奏技術以外のことで」
「は?ますます分からん。何の話だ?」

さっさと言えとばかりに、聖は身を乗り出す。

「うん、これは佐賀先生とも相談したことなんだけどさ。芽衣ちゃんは、過去のトラウマでステージに立つのを怖がっている」

え?と訝しげな様子の聖に、公平は詳しく説明した。

12歳のコンクールの時の記憶から、舞台に立つのを怖がっていること。
本番では、実力が出せないこと。
ホールの館長が聖とのデュオコンサートを提案したが、固辞したことを。

「そうだったのか。まあ、演奏家はみんな何かしら悩みを抱えてるけど、この先のキャリアを考えるとどうにかしてやりたいな」
「ああ。佐賀先生も気にかけていらっしゃった。卒業後は見守ってやれないからって」
「そうだな。俺達は今後も長く彼女と一緒に活動出来る訳だし、少しずつ様子を見ながら寄り添っていこう」
「うん、それがいいと思う。彼女さ、きっとこれまでピアノ漬けの日々だっただろうから、この合宿も気晴らしになればいいと思ってるんだ。この時間を楽しんで欲しい」

穏やかにそう言う公平を、聖は複雑な気持ちで見つめる。

(公平は、彼女に特別な感情を持っているのか?)

きっとそうなのだろう。
だからそんなにも詳しく彼女の様子を把握しているのだ。

(それがなんだ?別に俺には関係ない)

聖は自分にそう言い聞かせていた。
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