Bravissima!ブラヴィッシマ
「今日の動画は、ボロディンの《イーゴリ公》ダッタン人の踊りはどうかな?」

買い物を終えて戻って来た公平が昼食にパエリアを作り、皿に取り分けながら尋ねる。

「ああ、いいぜ。イスラメイもいいか?」
「はい、もちろん」

昼食後、いつものようにワンテイクで撮り終えた。

公平は早速編集に取りかかると言って部屋に引き挙げる。

「せっかくだから、もう少しなんか合わせないか?」
「はい、ぜひ」

残された二人で好きな曲を合わせてみることにした。

「冬だし、『冬』でもやるか」
「ふふふ、はい」

笑いながらそれぞれ楽譜を用意して構えた。

「よし、いくぞ」
「はい」

二人で息を合わせて鋭く情熱的に奏でる。

ヴィヴァルディ作曲の《四季》より「冬」

「おー、これなかなかいいな。動画撮っとけば良かった」
「ほんとですね。次回もう一度やりますか?」
「そしたら1発撮りにならない」
「え、如月さんって案外真面目なんですね。黙ってればバレねえよっておっしゃるかと思ってました」

すると聖は能面のような顔で芽衣を見下ろす。

「おい。俺のイメージどうなってんだよ?これでも音楽を愛する心清きヴァイオリニストのつもりだけど?」
「そ、そうですね、失礼しました。楽器を下ろすと人が変わるので、つい」
「なんだと?まだディスってるな?」
「違います!本当に心から尊敬しています。如月さんはどんな曲でも完璧で。弾きこなせない曲はないんですね」

そう言って芽衣は思い出したように頭を下げた。

「すみません、私が弾けないばかりに《カルメン幻想曲》が保留になっていて」
「別にいいよ。絶対あの曲を弾かなきゃいけない訳じゃない。それに普通に聴いてりゃ、お前は充分上手い」
「いいえ。如月さんの伴奏者なのですから、如月さんを納得させられないようでは務まりません。なんとかこの合宿中には掴めるようにがんばります」
「いや、掴めるようにって言っても……」

ハバネラを妖艶に、大人の色気たっぷりに弾くってことか?と聖は視線をそらして考え込む。

(そんなの、すぐに掴むって言ったら……)

ほわーんと大人の男女の情事が思い浮かび、慌てて頭を振っていると芽衣が口を開いた。
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