Bravissima!ブラヴィッシマ
再び車に乗ると、今度は公平がハンドルを握り、20分ほど走らせる。

着いたのは、まるで美術館のようなオシャレな建物だった。

「ここは?」

聖の手を借りて車を降りた芽衣は、大きくてモダンな外観を見上げて尋ねる。

「如月フォレストホール。座席数1500ほどのコンサートホールだ」
「え、如月ってことは、如月建設が建てたってことですか?如月シンフォニーホールみたいに」
「そう。まあ、じいさんの道楽だな。別荘に来てもコンサートが聴きたいってさ」

すると公平が横から話に加わる。

「おいおい聖。理事長に対して随分な物言いだな。芽衣ちゃん、理事長はね。過疎地と言われる田舎にも演奏の場を、という信念で活動していらっしゃるんだ。都会にばかり良いホールや演奏家が集まるのを懸念してね」
「そうなんですね。それはとってもありがたいことですよね。遠くまで足を運ばなくても、素敵なホールで生の演奏が聴けるなんて。そこからまた新たな音楽家が生まれますよね、きっと」
「ああ。音楽をどこにいても身近に感じられるように。理事長のその想いを俺もサポートしていきたいと思っている」
「ええ」

微笑み合う芽衣と公平に憮然としながら、聖は歩き出した。

「ほら、早く行くぞ。コンサートが始まる」
「え、これからコンサートが聴けるんですか?」

思わず芽衣は声のトーンを上げる。

「当たり前だ。でなければどうしてここに来る」
「わー、嬉しい!早く行きましょ」
「だからそう言ってただろうが」

まったく、とぶつぶつ言いながら、聖は芽衣をエスコートしてホールのエントランスに入った。

「内装も素敵ですね。シンプルだけど洗練された雰囲気で」

聖は、あちこちに目を向ける芽衣の肩を抱き寄せる。

「危ないからちゃんと前見ろ。階段踏み外して手をついたらどうする」
「はい、すみません」
「ん、これプログラム」
「ありがとうございます。えー、ボレロ!まさかここでボレロが聴けるなんて!」
「おい、足元見ろったら」

ソワソワする芽衣の肩をしっかりと抱き、聖は客席に着いた。
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