Bravissima!ブラヴィッシマ
……ごめん
「はあ、もう、今日は1日夢の中にいたみたい」

別荘に戻ると、芽衣は半分ボーっとしながらソファに座り込む。

チャペルで演奏したあと、ホテルのフレンチレストランで遅めのディナーを楽しみ、帰って来たのは23時を過ぎた頃だった。

「お疲れ、芽衣ちゃん。カフェインレスのコーヒー淹れるよ」
「あ、私がやります」
「いいから座ってて」

スーツのジャケットを脱いだ公平は、キッチンで三人分のコーヒーを淹れると、自分はカップを持って部屋に引き挙げていった。

撮ったばかりの動画の編集作業をするらしい。

「今夜はたくさん撮ったから、編集も大変そうですね」
「ああ、いつもと違う場所だったしな。でも公平ならいい動画に仕上げてくれると思う」
「そうですね。聴くのは怖いから、ミュートで観てみようかな」
「ははっ!何の意味があるんだよ」

芽衣と聖はコーヒーを飲みながらくつろいで会話を楽しむ。

「如月さん、今夜は本当にありがとうございました。信じられないくらい幸せな時間でした」
「どういたしまして。こんな田舎でも結構いいことあるだろ?」
「はい。贅沢な気分を味わわせていただきました。理事長の音楽に対する想いも感じられて、すごく嬉しかったです。帰ったらお礼に伺いますね」
「別にいいよ。お前には動画撮影で散々世話になってるからな。これくらいどうってことないってじいさんも思ってる」

そう言うと聖はソファに背を預けて天井を仰いだ。

「はー、それにしても気分いいな。酒でも飲むか。お前は?」
「いえ、私は結構です」
「あ、そうか。飲んだことないんだったな」
「はい。ですので、ウーロン茶にしようかな」

キッチンに二人で並んでそれぞれグラスに注ぐと、またソファに戻った。

聖はウイスキーをグイッと煽る。

隣に座る芽衣にふと目を向けると、綺麗にヘアメイクしたドレス姿に改めて見惚れた。

伏し目がちに両手で持ったグラスをなんとなく揺らしているその横顔は、まだ楽しかった余韻に浸っているようで、美しい微笑みを浮かべている。

目をそらせなくなった聖は、無性に芽衣にヴァイオリンの演奏を捧げたくなった。

愛する人に曲を書いた、はるか昔の作曲家達の気持ちが分かる気がする。

(何を考えているんだか。俺は単なる自惚れたナルシストか?)

考えを断ち切るように、またもやウイスキーを煽った。
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