Bravissima!ブラヴィッシマ
「こんなふうに、普段と違う経験をするって貴重ですね。なんだか気持ちが変わるというか、演奏に対するインスピレーションが湧いてくる気がします」

芽衣はじっと手元を見ながら真剣な口調で呟く。

「そうだな。それも演奏家として大切な事だと思う。いつも楽器に向き合ってばかりいると、何を表現したいのか分からなくなる。自然の美しさに触れたり、人と心を通わせたり。そうやって感情を豊かにしてこそ、良い演奏が生まれるんだと思う」
「ええ、おっしゃる通りです。如月さん、いつも本当にありがとうございます。こんなにも素晴らしい機会を与えてくださって、感謝してもし切れません」
「俺だって、お前からたくさんの刺激をもらっている。これからも二人で新たな音を作り出していこう」
「はい!」

弾けるような笑顔を浮かべる芽衣に、聖は思わず息を呑む。

こんなにも心を開いて笑いかけてくれるのは、初めてだった。

「えっと、次は何の曲やりたい?」

誤魔化すようにテーブルの上にあった楽譜の束を手に取って、パラパラとめくってみる。

「高瀬さん、ヴァイオリンとピアノアレンジの曲、こんなにたくさん用意してくださってたんですね」
「ああ。公平のサポートはいつも完璧だ。だからこそ俺は演奏に専念出来る」

芽衣はその言葉に、聖と公平の関係がうらやましくなった。

(そこに私も加えてもらえたらなあ。なんて、図々しいか)

考えを否定して楽譜を覗き込む。
と、ある楽譜が目に留まって思わず声を上げた。

「あ、これやりたい!」
「ん、どれ?」
「ストラヴィンスキーの火の鳥!」
「おお、いいな」

ストラヴィンスキー作曲のバレエ音楽《火の鳥》カスチェイ王の魔の踊り

オーケストラの曲を、ピアノとヴァイオリンに編曲した楽譜だった。

「この曲、かっこ良くてゾクゾクしますよね」
「ああ。これも1発撮りでやろうか」
「うわー、違った意味でゾクゾクですね」
「ははっ!いい雰囲気出せそうじゃないか」
「確かに」

笑い合ってまた別の楽譜に目を通す。
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