Bravissima!ブラヴィッシマ
他にも何曲か候補を選んでいた時だった。

グラスに手を伸ばした芽衣がゴクゴクと一気に飲み干したあと、ふえ?と変な声を上げた。

ん?と目を向けた聖が、驚いて目を見開く。

「おまっ、それ、ウイスキー!」
「へ?」

慌てて芽衣の手からグラスを取り上げるが、時すでに遅し。

グラスは空っぽで、芽衣は目もうつろだった。

「ちょっと待ってろ。すぐに水を……って、うわ!大丈夫か?」

芽衣の身体がふらーっと傾き、聖は咄嗟に両腕で抱きしめた。

「おい、しっかりしろ!」
「ううっ、ん……、ダメ、揺らしちゃ」

恐らく身体を揺らされると酔いが回って気持ち悪いと言いたいのだろう。

だがその口調は色っぽく、うつろな目は艶めかしい。

(いやいやいや、待て待て。カルメンのハバネラどころじゃないな。どうする?これ)

くたりと自分の胸にもたれかかる芽衣に、聖はあたふたと落ち着かない。

それでなくとも今夜の芽衣は、綺麗にメイクされて魅力的だった。

ふっくらとした唇は艶やかで、長いまつげを伏せて自分に身を任せている。

そんな芽衣を腕に抱きしめて、聖はもはやどうすればいいのか分からない。

(いや、どうしたいのかは分かるけど、それはいかんからな。えっと、どうするべきだ?とにかくこのままだといかん)

必死に己に言い聞かせると、芽衣を部屋で休ませることにした。

「ほら、立てるか?」

身体を起そうとすると、芽衣はうっすら目を開けて聖を見つめる。

「ううん、ダメ……。身体が、おかしいの」

潤んだ瞳で甘くささやかれ、聖は全身がカッと熱くなる。

「怖い、どうなるの?私、変なの」

芽衣は涙を目に一杯溜めて、すがるように聖を見上げてきた。

「落ち着け。アルコールが抜ければ大丈夫だから。とにかく部屋へ……」

そう言って立ち上がろうとすると、芽衣は両腕を聖の首の後ろに回してしがみついた。

「無理、ダメ、身体がふわふわして、熱くて」

そのまま崩れ落ちそうになる芽衣を、聖は一気に抱き上げた。

「部屋まで運ぶから」
「……うん」

小さく頷く芽衣は、聖の庇護欲もかき立てる。

(ああ、もう、くそっ)

己の感情を抑えつけ、聖は芽衣の部屋に向かう。

ドアを開けてベッドまで進むと、ゆっくりと芽衣を横たえた。
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