Bravissima!ブラヴィッシマ
そのあと本気でガーシュウィンの合わせを始めた二人にやれやれと肩をすくめて、公平は自分の部屋で編集作業することにした。

「いやー、カウントダウンってゾクゾクするな。ラスト、ちゃんとはまるのかな?」
「それはもうマエストロ次第ですよね。信じてタクトに合わせるしかないです」
「うん。たまにものすごいテンポアップして、ラスト駆け込んでる時あるよな」
「ありますね。逆に最後の音をものすごいフェルマータにして時間稼ぎしてたり」
「あるある!露骨な時間調整。けど、ピタッと音楽的に自然にハマった時は、思わずブラーヴォ!って拍手喝采」
「うんうん、分かります。新年をスッキリ気持ち良く迎えられますよね。あー、明日楽しみだな」

二人は夜遅くまで念入りに《ラプソディ・イン・ブルー》を合わせた。

午前0時が近づくと、曲の時間を逆算して実際に弾いてみる。

楽譜と時計を交互に見ながら、なんともスリリングに演奏を終えた。

「お!時間ぴったりじゃね?いけるなー、俺達」
「ふふっ、明日は時計じゃなくて指揮を見てればいいから、気が楽ですね」
「おう、明日がんばろうぜ」

そう言って聖は、ふと時計を見上げる。

「午前0時か。なあ、《死の舞踏》もう一回やらない?」
「おおー、いいですね。リアルだろうな」
「よし、じゃあ照明も落とすか」

聖は天井のライトをグッと絞った。

月明かりでぼんやりとしたリビングに、ダークな世界が広がる。

「うわっ、ほんとに墓場みたいな雰囲気」
「ああ。いいねー、ゾクッとする。この曲を弾くにはうってつけだ。いくぞ!」
「はい」

死神達の不気味なワルツは、以前動画撮影で演奏した時よりも、更に深い世界観を生み出して演奏される。

芽衣はもはや自分の周りにガイコツがたくさん現れ、取り囲まれているような気がしてきた。

背筋に冷たい感覚が走り、恐怖に駆られながら演奏する。

最後まで弾き切ると、聖は満足気に、はあー、と恍惚の表情を浮かべた。

だが芽衣は、ハッとして辺りを見渡す。
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