Bravissima!ブラヴィッシマ
「ん?どうかしたか?」
「あの、私もう、怖くて」
「あはは!自分で弾いて怖くなってんの?」
「だって、こんな。ほんとに午前0時に暗がりの中で弾いたのなんて初めてで。もう死神に憑りつかれたかと……」
その時、ふいに聖のヴァイオリンケースがパタンと音を立てて閉じた。
「ぎゃーー!!」
芽衣は飛び上がり、脱兎のごとく聖のもとへやって来ると、ガバッと抱きつく。
「うわ、ちょっと!」
「こ、怖い!怖いよー」
「はあ?自分の演奏に本気で怯えるなんて、何やってんだよ」
聖はそう言って呆れるが、芽衣は本当に怖いらしく、聖のシャツの胸元を掴んでカタカタと震えていた。
「大丈夫だから。とにかくちょっと楽器置かせろ」
聖はゆっくり後ずさってテーブルにヴァイオリンと弓を置く。
その間も芽衣はピタリと寄り添って、聖の胸に顔をうずめていた。
「ほら、ソファに座って」
肩を抱いて座らせると、芽衣はチラリと辺りに視線を向ける。
そしてまたしても聖の胸にギュッと抱きついてきた。
「やれやれ、お子ちゃまかよ。いいか?もう二度と夜中に怖い曲弾くなよ?」
コクコクと芽衣は黙って頷いている。
(マズイな。トラウマにならなきゃいいけど)
まさかこんなに怖がるとは思わなかったと、聖は顔をしかめて反省する。
芽衣がこの先この曲を弾くたびに思い出して怯えたら、それは自分の責任だ。
(いかん。とにかく恐怖を払拭しないと)
そう思って照明を明るくしようとするが、なにせ芽衣はくっついたまま離れてくれない。
「なあ、ちょっとだけ手を離して。部屋の電気つけるから」
芽衣はプルプルと首を横に振る。
(もう、どうしろっていうんだよ)
途方に暮れるが、悪いのは自分だ。
今後芽衣がこの曲を弾けなくなってはいけない。
「じゃあ俺の首に掴まってろ」
そう言うと聖は両腕を芽衣の腰の下に回し、まるで子どもにするように抱っこして立ち上がった。
「ひゃっ!」
芽衣が慌てて聖の首にしがみつくと、聖はそのまま壁まで歩いて照明を明るくする。
「ほら、もう大丈夫だろ?」
言われて芽衣はそっと顔を上げて辺りを見た。
見慣れたリビングにホッとする。
だが窓の外に広がる暗闇からまたガイコツが現れそうで、芽衣はもう一度顔を伏せて聖にしがみついた。
「おーい、いつまでこうやってる気だ?」
「だって、怖いんだもん」
「じゃあもうベッドに入って、さっさと寝ちまいな」
「え、一人で?」
「当たり前だろ」
すると芽衣は、うるうると目を潤ませて聖を見つめた。
「怖くて無理」
「はあー?じゃあどうすんのさ」
「ずっとここで起きてる」
「あっ、そ。じゃあ俺は行くから。おやすみ」
「ぎゃー!やだやだ!怖い!」
「ウグッ、首が締まる。分かった、分かったから離せ」
聖はソファまで戻ると、芽衣を抱いたまま腰を下ろす。
「それで?俺はどうすればいいんだ?」
「このままにしてて」
「はあ、やれやれ」
諦めたようにため息をついて、聖は芽衣を抱いたままソファにもたれた。
芽衣は聖の膝に横座りして、相変わらず聖の胸に顔をうずめている。
「えーっと?それでは何か楽しいお話でもしましょうか?」
「はい、お願いします」
「むかーしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが……」
「そういうのはいいです」
「なんだと?!じゃあもう知らん。あとは一人で……」
「どうしよう。私、二度とあの曲弾けなくなったら」
「うっ……」
それを言われると辛い。
「じゃあ、如月 聖くんの生い立ちでも話しましょうか?大して面白くも何ともないですが」
「はい、聞きたいです」
「あ、そう?では、ゴホン!」
おもむろに咳払いしてから、聖は語り始めた。
「あの、私もう、怖くて」
「あはは!自分で弾いて怖くなってんの?」
「だって、こんな。ほんとに午前0時に暗がりの中で弾いたのなんて初めてで。もう死神に憑りつかれたかと……」
その時、ふいに聖のヴァイオリンケースがパタンと音を立てて閉じた。
「ぎゃーー!!」
芽衣は飛び上がり、脱兎のごとく聖のもとへやって来ると、ガバッと抱きつく。
「うわ、ちょっと!」
「こ、怖い!怖いよー」
「はあ?自分の演奏に本気で怯えるなんて、何やってんだよ」
聖はそう言って呆れるが、芽衣は本当に怖いらしく、聖のシャツの胸元を掴んでカタカタと震えていた。
「大丈夫だから。とにかくちょっと楽器置かせろ」
聖はゆっくり後ずさってテーブルにヴァイオリンと弓を置く。
その間も芽衣はピタリと寄り添って、聖の胸に顔をうずめていた。
「ほら、ソファに座って」
肩を抱いて座らせると、芽衣はチラリと辺りに視線を向ける。
そしてまたしても聖の胸にギュッと抱きついてきた。
「やれやれ、お子ちゃまかよ。いいか?もう二度と夜中に怖い曲弾くなよ?」
コクコクと芽衣は黙って頷いている。
(マズイな。トラウマにならなきゃいいけど)
まさかこんなに怖がるとは思わなかったと、聖は顔をしかめて反省する。
芽衣がこの先この曲を弾くたびに思い出して怯えたら、それは自分の責任だ。
(いかん。とにかく恐怖を払拭しないと)
そう思って照明を明るくしようとするが、なにせ芽衣はくっついたまま離れてくれない。
「なあ、ちょっとだけ手を離して。部屋の電気つけるから」
芽衣はプルプルと首を横に振る。
(もう、どうしろっていうんだよ)
途方に暮れるが、悪いのは自分だ。
今後芽衣がこの曲を弾けなくなってはいけない。
「じゃあ俺の首に掴まってろ」
そう言うと聖は両腕を芽衣の腰の下に回し、まるで子どもにするように抱っこして立ち上がった。
「ひゃっ!」
芽衣が慌てて聖の首にしがみつくと、聖はそのまま壁まで歩いて照明を明るくする。
「ほら、もう大丈夫だろ?」
言われて芽衣はそっと顔を上げて辺りを見た。
見慣れたリビングにホッとする。
だが窓の外に広がる暗闇からまたガイコツが現れそうで、芽衣はもう一度顔を伏せて聖にしがみついた。
「おーい、いつまでこうやってる気だ?」
「だって、怖いんだもん」
「じゃあもうベッドに入って、さっさと寝ちまいな」
「え、一人で?」
「当たり前だろ」
すると芽衣は、うるうると目を潤ませて聖を見つめた。
「怖くて無理」
「はあー?じゃあどうすんのさ」
「ずっとここで起きてる」
「あっ、そ。じゃあ俺は行くから。おやすみ」
「ぎゃー!やだやだ!怖い!」
「ウグッ、首が締まる。分かった、分かったから離せ」
聖はソファまで戻ると、芽衣を抱いたまま腰を下ろす。
「それで?俺はどうすればいいんだ?」
「このままにしてて」
「はあ、やれやれ」
諦めたようにため息をついて、聖は芽衣を抱いたままソファにもたれた。
芽衣は聖の膝に横座りして、相変わらず聖の胸に顔をうずめている。
「えーっと?それでは何か楽しいお話でもしましょうか?」
「はい、お願いします」
「むかーしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが……」
「そういうのはいいです」
「なんだと?!じゃあもう知らん。あとは一人で……」
「どうしよう。私、二度とあの曲弾けなくなったら」
「うっ……」
それを言われると辛い。
「じゃあ、如月 聖くんの生い立ちでも話しましょうか?大して面白くも何ともないですが」
「はい、聞きたいです」
「あ、そう?では、ゴホン!」
おもむろに咳払いしてから、聖は語り始めた。