Bravissima!ブラヴィッシマ
「めーいー!あけおめ!」

大学の門を入ったところで後ろから声をかけられ、芽衣は振り返る。

同じピアノ科の同級生、弥生が小走りに駆け寄って来た。

「弥生ちゃん!明けましておめでとう。ことしもよろしくね」
「こちらこそ。あー、冬休み終わったね。私、腕がなまってて怖いよー。もうすぐだもんね、卒業試験」
「うん、そうだね」
「おっ、何やら余裕?まあ、芽衣だから当然か」
「ううん。あのね、冬休みたっぷりピアノ弾けたんだ。だからちょっと嬉しくて」

二人並んで歩きながら、芽衣は楽しかった合宿を思い出して微笑む。

「ふーん。あれ?芽衣、なんかちょっと雰囲気変わった?」
「え?どこが?別に髪型とかも変えてないよ」
「そうだよね。相変わらず寝ぐせついてるし」
「嘘!どこ?」
「あっちこっち」
「えー、どうしよう」

肩まである髪を、芽衣は両手でなでつけた。

「ま、いっか!ピアノ弾く時どうせ結ぶし」
「そうやって、いーっつも色気のないおばさん結びしてるよね、芽衣」

芽衣はピクリと反応する。

「弥生ちゃん、今年の私はひと味違うんだから」
「どう違うの?」
「色気を手に入れるの」

シーン……と静けさが広がり、弥生がじとーっとした視線を芽衣に向ける。

「な、なによ?」
「芽衣、新年早々ジョークが上手いわね」
「本気だもん!」
「へー。おばさん結びでどうやって色気を手に入れるのよ?」
「分かんないけど……。どうにかして」

プッと弥生は軽く吹き出す。

「どうにかして色気をねえ。それは楽しみね。手に入ったら教えて」
「うん、分かった」
「あはは!楽しみにしてる。じゃあねー」

手を振って練習室に向かう弥生を見送りながら、芽衣は気合いを入れる。

「よし!絶対手に入れてやるんだからね。待ってろよー、色気!」

フン!と鼻息荒く、芽衣も練習室へと歩き出した。
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