Bravissima!ブラヴィッシマ
「なんか変わったね、演奏。いいことでもあった?」

佐賀教授に言われて、芽衣は顔を上げる。

年明けの最初のレッスンを終えて、片づけをしているところだった。

「え?そうでしょうか。自分では特に気づきませんでしたが」
「そう?なんだろう、いい具合に肩の力が抜けて伸び伸び弾いてるというか。楽しそうだよね」
「あ、楽しさは感じます。楽しいだけではいけないのでしょうけど」
「いや、君ならそれくらいがちょうどいい。卒業試験もこの調子だと大丈夫だな」

う……と芽衣は言葉に詰まる。

「それはどうか分かりませんが」
「大丈夫でしょ?君なら。ははは!」
「先生、すごいプレッシャーです」
「大丈夫だって。3月の卒業演奏会のメンバーにも選ばれるだろうから、そのつもりでね」

途端に芽衣は表情を曇らせた。

卒業演奏会は、卒業試験の上位者のみが演奏を許される舞台。
まさに音大生にとっての集大成とも言え、誰もがその切符を手に入れる為に必死だった。

だが芽衣にとってはそうではない。
卒業試験で審査されるだけでも気が重いのに、卒業演奏会ともなると、ホールは観客で満席になる。

芽衣は想像しただけで手が震え、足がすくんだ。

「……やっぱり心配?」

うつむいたままの芽衣を気遣うように、教授が声をかける。

「いえ、大丈夫です。がんばりますので、よろしくお願いいたします」

そう言って芽衣は、そのまま頭を下げた。
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