Bravissima!ブラヴィッシマ
「え?ドリームステージ、ですか?」

翌日。
いつものようにレッスン室に現れた芽衣に、佐賀教授はチラシを差し出した。

「そう。如月フィルと共演出来る夢舞台だ」
「へえ、素敵ですね」
「だろ?君も応募してみなさい」

は?と芽衣が目を丸くして顔を上げる。

「私が、ですか?いえいえ!滅相もない。オケと共演なんて、そんな大それたこと許される訳がありません」
「それが許されるのが、このドリームステージだよ」
「ですが、私なんかがそんなこと……」
「選ぶのは如月フィルだ。君が決めることじゃないよ」
「いえ、あの。応募するのもおこがましいですし……」

頑なに拒否する芽衣に、教授は切り札を出した。

「応募すれば、卒業演奏会は免除しよう」

え!と芽衣は教授を見つめる。

「だって、そっちの練習にかかり切りになるからね。それなら卒業演奏会を見送っても仕方ないと、周りも納得する。それに大学側も、君が卒業演奏会に出るよりオケと共演する方が、宣伝効果や実績の面でも喜ばしいだろうしね」
「ですが、やはり私なんかが……」
「言っただろう?君を評価するのは君じゃない。如月フィルだ。応募して、もし落選でも構わないよ。そこから卒業演奏会の練習は間に合わないからと言ってね。つまり、応募するだけで卒業演奏会は免除。どうだい?どっちのステージを選ぶ?試験と同じ曲をもう一度独奏する方がいい?」

芽衣はじっと一点を見据えて考えている。

「想像してごらん。オケと共演出来るんだ。どんな曲がいい?どんなふうに弾きたい?全ては君の自由なんだよ」

ハッと芽衣は顔を上げた。
その瞳に強い意志が宿る。

「先生、私やりたいです。どんなに緊張しても、どんなに恐怖に襲われても演奏したい。そのまま舞台で倒れたって構いません。今、私が持てる全てをぶつけて挑みたいです」

教授は大きく頷いてみせた。

「よし、やろう!」
「はい!」

生まれ変わった。
その表現がぴったりだと、教授は目の前にいる芽衣の姿にそう思った。
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