Bravissima!ブラヴィッシマ
審査
「それではこれより、ドリームステージの参加者審査を始めます。長丁場になりますが、どうぞよろしくお願いいたします」

3日後、ホールの会議室に以前と同じメンバーが集まった。
既に皆、手元の資料に熱心に目を通している。

「まず審査方法をご説明いたします。資料の2ページ目の応募者名簿をご覧ください。応募順に1から番号を振ってあります。但し個人情報保護の観点から、ここではお名前をイニシャル表記とさせていただいています」

公平の話に耳を傾けながら、聖はペラペラと資料をめくってみた。

番号の横にイニシャルと年齢、所属先の学校名や職業、共演したい内容と曲名、意気込みがひと言書かれている。

「これよりプロジェクターで、応募者の演奏動画を番号順に映し出します。一人につき30秒程度、応募総数は128件ですので、ノンストップで流しても1時間はかかります。皆様、ご無理なきよう、随時休憩を取ってください。見逃した動画はあとで再生出来ますので」

分かりました、とメンバーは頷く。

「これは、と思う演奏がありましたら、名簿の番号に〇をつけてください。但し上限は5人まで。該当者なしの場合は未記入で結構です。つまり〇の数は0から5個までとなります。その後集計しまして合格者を決めます。何かご不明な点はございますでしょうか?」
「いや、大丈夫です」

指揮者の金井がそう言うと、周りも賛同して公平に注目した。

「では早速審査を開始します。前方のスクリーンにご注目ください」

公平は部屋の照明を絞ると、動画の再生を始めた。

(えっと、最初の応募者は5歳の女の子か。大きなステージで歌いたい、と。可愛いな)

名簿の記載を読むだけで頬を緩めていた聖は、映し出された動画に思わずメロメロになった。

あどけない女の子が口を大きく開けて、一生懸命ピアノに合わせて童謡の《にじ》を歌っている。

(くうー、可愛い!なんて透き通った歌声、まさにエンジェルボイス。おててユラユラ揺らしてリズム取ってるのね。うんうん。ひゃー、虹のキラキラ振り付け!たまんねー。はい!ごうかーく)

悶絶しながら、聖は名簿の1番にグルグルと○をつけた。

2番目の応募者は、58歳の会社員の男性。

(え!フルート演奏?半年後の娘の結婚式で演奏したいと、猛練習中。今回オーケストラと一緒に演奏して、娘の門出を祝いたい、か。いいねえ、お父さん。泣けるねえ)

娘の好きな曲だという《美女と野獣》を、娘のピアノ伴奏で演奏する姿が映し出された。

フルートはたどたどしいながらも、時折娘とアイコンタクトを取る様子が何とも親子の愛に溢れている。

(あー、沁みるわ。父ちゃん、がんばれ)

聖は2番にも〇をつける。

そんな調子で、気づくと連続で5番まで〇をつけていた。

(あかん!もうここから先、誰にも〇がつけられない。どうしたもんかー)

その後の動画を観ながら、聖は頭を抱える。

結局いいと思うものには全て〇をつけておいて、あとで動画を見返しながら削っていくことにした。

公平は動画が1時間にも渡ることを懸念していたが、途中で席を立つ人は誰もいない。

皆が熱心に食い入るように動画を見つめ、微笑ましく頷いたり、驚いたように目を見開いたりと、リアクションも揃っていた。

審査の場でなければ、きっと誰もが口々に称賛の言葉を述べただろう。

(全員合格にしたい)

そう思うほど、どの動画も音楽に対する熱意がこもっていた。

(次で最後か。あー、5つに絞るなんて無理だな)

名簿を見返して自分がつけた〇印の多さに眉根を寄せた聖は、流れてきた音にハッとして顔を上げた。

斜め後方から撮影された、ピアノ演奏の動画。
顔は映っていない。
だが見なくても分かる。
この音は、芽衣だと。

急いで名簿に目をやる。

128番 M・K 22歳

間違いない、やっぱり芽衣だ。
でもなぜ?

答えを求めるように公平を見ると、公平は聖の視線に気づいて顔を上げる。

だが公平は、聖に小さく頷いてみせるだけだった。
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