Bravissima!ブラヴィッシマ
「それではこれが最終決定の合格者名簿です。協議の結果、当初の予定より人数を増やし、10名を合格といたしました。これからすぐに合格者に電話で連絡をいたします。辞退の申し入れがあった場合も繰り上げはなし、ということでよろしいでしょうか?」

公平の最終確認に、指揮者の金井は頷く。

「ああ、結構だ。いやー、それにしても随分充実したステージになりそうだね。今から楽しみだ。編曲作業など、すぐに取りかかろう」
「はい」

メンバーは「なかなかの演奏動画でしたね」とようやく感想を言い合いながら席を立つ。

「聖コンマス」

金井に声をかけられて、聖は立ち上がった。

「はい」
「パガニーニ・ラプソディ、いけそうかい?あと2週間もないけど」
「大丈夫です。如月フィルはそんなにヤワなオケではありません」
「はは!それは頼もしい。リハーサル、楽しみにしているよ」
「はい。よろしくお願いいたします、マエストロ」

お辞儀をして見送ると、聖はもう一度合格者名簿の一番上に目を落とした。

128番 木村 芽衣 22歳 東京芸術音楽大学4年生 ピアノ演奏 ラフマニノフ《パガニーニの主題による狂詩曲》

何度読み返しても同じだ。
芽衣がこの大曲で、如月フィルと共演する。

ラフマニノフがピアノとオーケストラのために書いた《パガニーニの主題による狂詩曲》は、パガニーニの《カプリース第24番》の主題が24回にわたって変奏される作品で、演奏時間は25分近く。

決して簡単な曲ではないが、芽衣なら弾きこなすだろう。

だが如月シンフォニーホールの舞台に立ち、大勢の観客を前にしたら?

後ろにはオーケストラを従え、指揮者は自分の様子をじっと見ながら指揮をする。

果たしてその時、芽衣の心理状態は?

このドリームステージは、本人を交えてのリハーサルは当日の朝軽く合わせる程度だ。

曲を通して演奏するのは、本番の1度切り。

通常でもかなりハードルが高いその本番を、芽衣は無事に最後まで演奏し切れるのか?

途中でどうにかなってしまわないだろうか?

聖の心配は尽きない。

けれど今の自分にはどうすることも出来なかった。
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