Bravissima!ブラヴィッシマ
「もっと強く!その音だとオケにかき消されるよ」
「はい!」

3月15日に向けて、芽衣はひたすら佐賀教授のもとでレッスンを受けていた。

如月フィルから詳しい案内があり、曲は全編ノーカットで演奏するとのこと。

なんとありがたく光栄なことだろうと、芽衣は全身全霊でこの曲に挑んでいた。

教授も時間の許す限り芽衣の練習につき合ってくれる。

4年間お世話になった恩師だが、ここに来てようやく本当の師弟関係が結べたのではないかと思うほど、本音をぶつけ合い濃厚な時間を過ごした。

そして3月14日。
最後のレッスンを終えると、教授はしみじみとした口調で芽衣に語りかける。

「私が君に教えることはもう何もないよ。明日、思い切り弾きなさい。失敗しようが、倒れようが、どうなってもいい。何が起ころうとピアノに向き合いなさい。いいね?」

芽衣はしっかりと頷く。

「はい。佐賀先生、これまで私を見捨てずに導いてくださって、本当にありがとうございました。先生から教わった音楽は、全て私の中にあります。明日、その全てをぶつけて挑みます」
「ああ。私もこの目でしかと見届けるよ」

そう言って教授は右手を差し出した。

芽衣も右手を出すと、教授はグッと力をこめて握り、更に左手を重ねる。

まるで自分のパワーを芽衣に注ぎ込むように。

大きく力強く頷く教授に、芽衣も決意をこめて頷いた。
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