Bravissima!ブラヴィッシマ
「もしもし、佐賀先生でいらっしゃいますか?ご無沙汰しております、高瀬 公平です」
『高瀬くんか!久しぶりだな。どうだい、元気でやってるかい?』
「はい、お陰様で」

あまり予算もかけられない中、どうやって聖の伴奏ピアニストを探そうかと考えた公平が真っ先に思い浮かべたのは、音大時代の恩師に生徒を推薦してもらうことだった。

今や音大の副学長も務めている佐賀教授は、後進の育成にも熱心で、若手の才能を見い出して音楽家への道を開いてくれることでも定評がある。

おそらく教授はこの話を興味深く聞き届けてくれるだろうと、公平は思っていた。

『へえ、聖くんの伴奏ピアニストをね。あの動画は私も聴かせてもらったよ。素晴らしかった。なるほど、今度はピアノ伴奏で弾くのか』

話をしてみると思った通り、教授の口ぶりには前向きな印象がうかがえる。

『それは私の生徒にとってもありがたい話だよ。だけどどうして高瀬くんじゃないんだい?君がやればいいと私は思うけど』
「ご冗談を。私では彼の実力に到底ふさわしくありません」
『そうかな?たいていの曲なら問題ないはずだ。それでも君が謙遜するということは……』

電話口の向こうで、教授がニヤリとするのが分かった。

『つまり、聖くんを本気にさせたい。聖くん自身も気づいていない新たな魅力を引き出したい。そういうことだね?』

ふっ、と公平も思わず笑みをもらす。
やはり自分の恩師だけあって、考えを見抜かれていた。

「おっしゃる通りです。彼の新たな可能性を引き出してくれるようなピアニストを探しています」
『おやおや、なんとハードルの高い。お眼鏡にかなう逸材がいるといいんだけど。ひとまず私が推薦したい生徒の演奏の音源を送信するよ。君と聖くんで選抜してくれるかい?』
「そのような形でよろしいのでしょうか?こちらが決めるなど、おこがましい限りですが」
『ああ。立候補を募ったら我も我もと大騒ぎになるだろうからね。まずは君達が演奏を聴いて決めてくれないか?もし良い演奏だと思ってもらえる人がいたら、私からその生徒に話をしてみるよ』
「かしこまりました。どうぞよろしくお願いいたします」

丁寧に挨拶して電話を切る。

翌日には、教授からデータとメールが送られてきた。

『まずは30人の演奏データを送ります。敢えて名前や受賞歴は伏せさせてもらうよ。先入観なく聴いてみて欲しい。君と聖くんにとって、良い出会いとなることを祈念して』

教授の言葉に感謝しつつ、公平は早速パソコンを持って聖のいる練習室を訪れた。
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