Bravissima!ブラヴィッシマ
出演者それぞれの演奏を微笑ましく、時には涙ぐみながら袖で見守っていた芽衣は、出番が近づき落ち着かなくなる。
両手をほぐして温めながら、何度も深呼吸を繰り返した。
「それではいよいよ、本日最後の夢舞台です。大曲に挑むのはこちらの方です。どうぞ!」
司会者に促されて、芽衣は大きく息を吸ってからステージに歩み出た。
拍手を送ってくれる観客に深々とお辞儀をする。
「まずは自己紹介からお願いします」
芽衣は渡されたマイクを握りしめた。
「木村 芽衣と申します。音楽大学でピアノを勉強しています。どうぞよろしくお願いいたします」
「木村さんが今回このドリームステージに応募しようと思ったきっかけは何でしょうか?」
リハーサルではこのやり取りは省かれた為、答えるのはこれが初めてだ。
芽衣は考えながら言葉を選んだ。
「私は、幼い頃からピアノを習ってきました。ですが12歳の時のコンクールがきっかけで、舞台に立つのが怖くなってしまいました。ピアノは大好きですが、大勢の人を前にすると、恐怖と緊張で上手く弾けなくなるのです。今でもそのトラウマを克服出来ていません。そんな私に、恩師の方がこのドリームステージを勧めてくださいました。オーケストラと共演させていただく機会など、一生無縁だと思っていた私に、好きな曲を好きなように弾けるんだよと背中を押してくださいました。舞台に立つ怖さよりも、弾きたい!という想いが強くなり、チャレンジすることを決めました。これから演奏させていただきますが、どうなってもいい、今自分が持てる全てをぶつけて挑もう、そう思っています。こんな私に素晴らしい機会をくださったマエストロ、オケの皆様、そして聴いてくださる全ての方に感謝して、私の音楽を全身全霊で奏でます」
シン……とホールが静まり返る。
司会者が小さく頷いて声のトーンを落とした。
「木村さんのステージを、しっかりと見届けたいと思います。それでは、ご準備をどうぞ」
芽衣はマイクを返すと、ピアノに向かって歩き出す。
椅子の後ろで立ち止まって客席の方を向くと、司会者が最後のセリフを告げた。
「如月フィルとの夢の舞台、ドリームステージ。トリを飾るのは木村 芽衣さんです。曲はラフマニノフ作曲《パガニーニの主題による狂詩曲》です。どうぞ」
芽衣はしっかりと顔を上げて客席を見渡し、深くお辞儀をする。
シャワーのように降り注ぐ拍手の音は、自分を勇気づけてくれるような気がした。
ゆっくりと顔を上げ、笑顔を浮かべてからピアノの前に座る。
ふう、と大きく息を吐くと、両手を握りしめた。
(手が……震えてる)
そう思った途端、今度は身体中がカタカタと震え始めた。
思わずギュッと自分を抱きしめる。
(落ち着け、大丈夫。お願いだから震えないで)
焦りと共に背中がヒヤリと寒くなった時だった。
「芽衣」
聞こえてきた声にハッとして振り返る。
すぐ後ろで聖が真っ直ぐに自分を見つめていた。
「忘れるな、お前は一人じゃない。俺がそばについている」
芽衣は大きく目を見開いた。
ピタリと身体の震えが止まり、ふわりと気持ちが軽くなる。
聖はニヤリと不敵な笑みで続けた。
「いつも通り、1発でキメてやろうぜ」
芽衣の身体中に力がみなぎってくる。
「はい!」
大きく頷くと、聖も力強く頷き返した。
(もう大丈夫)
芽衣はマエストロとしっかりアイコンタクトを取る。
そして……
芽衣の魂を込めた演奏が始まった。
両手をほぐして温めながら、何度も深呼吸を繰り返した。
「それではいよいよ、本日最後の夢舞台です。大曲に挑むのはこちらの方です。どうぞ!」
司会者に促されて、芽衣は大きく息を吸ってからステージに歩み出た。
拍手を送ってくれる観客に深々とお辞儀をする。
「まずは自己紹介からお願いします」
芽衣は渡されたマイクを握りしめた。
「木村 芽衣と申します。音楽大学でピアノを勉強しています。どうぞよろしくお願いいたします」
「木村さんが今回このドリームステージに応募しようと思ったきっかけは何でしょうか?」
リハーサルではこのやり取りは省かれた為、答えるのはこれが初めてだ。
芽衣は考えながら言葉を選んだ。
「私は、幼い頃からピアノを習ってきました。ですが12歳の時のコンクールがきっかけで、舞台に立つのが怖くなってしまいました。ピアノは大好きですが、大勢の人を前にすると、恐怖と緊張で上手く弾けなくなるのです。今でもそのトラウマを克服出来ていません。そんな私に、恩師の方がこのドリームステージを勧めてくださいました。オーケストラと共演させていただく機会など、一生無縁だと思っていた私に、好きな曲を好きなように弾けるんだよと背中を押してくださいました。舞台に立つ怖さよりも、弾きたい!という想いが強くなり、チャレンジすることを決めました。これから演奏させていただきますが、どうなってもいい、今自分が持てる全てをぶつけて挑もう、そう思っています。こんな私に素晴らしい機会をくださったマエストロ、オケの皆様、そして聴いてくださる全ての方に感謝して、私の音楽を全身全霊で奏でます」
シン……とホールが静まり返る。
司会者が小さく頷いて声のトーンを落とした。
「木村さんのステージを、しっかりと見届けたいと思います。それでは、ご準備をどうぞ」
芽衣はマイクを返すと、ピアノに向かって歩き出す。
椅子の後ろで立ち止まって客席の方を向くと、司会者が最後のセリフを告げた。
「如月フィルとの夢の舞台、ドリームステージ。トリを飾るのは木村 芽衣さんです。曲はラフマニノフ作曲《パガニーニの主題による狂詩曲》です。どうぞ」
芽衣はしっかりと顔を上げて客席を見渡し、深くお辞儀をする。
シャワーのように降り注ぐ拍手の音は、自分を勇気づけてくれるような気がした。
ゆっくりと顔を上げ、笑顔を浮かべてからピアノの前に座る。
ふう、と大きく息を吐くと、両手を握りしめた。
(手が……震えてる)
そう思った途端、今度は身体中がカタカタと震え始めた。
思わずギュッと自分を抱きしめる。
(落ち着け、大丈夫。お願いだから震えないで)
焦りと共に背中がヒヤリと寒くなった時だった。
「芽衣」
聞こえてきた声にハッとして振り返る。
すぐ後ろで聖が真っ直ぐに自分を見つめていた。
「忘れるな、お前は一人じゃない。俺がそばについている」
芽衣は大きく目を見開いた。
ピタリと身体の震えが止まり、ふわりと気持ちが軽くなる。
聖はニヤリと不敵な笑みで続けた。
「いつも通り、1発でキメてやろうぜ」
芽衣の身体中に力がみなぎってくる。
「はい!」
大きく頷くと、聖も力強く頷き返した。
(もう大丈夫)
芽衣はマエストロとしっかりアイコンタクトを取る。
そして……
芽衣の魂を込めた演奏が始まった。