Bravissima!ブラヴィッシマ
二人のコンサート
翌日の卒業演奏会で弥生の演奏に涙し、その4日後の3月20日に、芽衣は思い出の詰まった大学を卒業した。

その後の進路は、まだ決まっていない。
つまり4月からは無職となる。

気持ちが焦らないと言えば嘘になるが、とにかく今はゆっくりと自分に向き合い、無理なくピアノを続けられる道を探そうと思っていた。

春休みに入ってすぐ、公平から「理事長がみんなで食事がしたいと言っている」と連絡があり、芽衣は都内のホテルのフレンチレストランへ向かった。

「やあやあ、イスラメイちゃん。よく来てくれたね。今日はゆっくり話をしようじゃないか」

相変わらずパワフルな理事長は、終始ご機嫌でフルコースを平らげ、ワインを飲み、楽しそうに喋り続ける。

公平と聖は、いつものことだとばかりに聞き流しているようだった。

(理事長ってものすごく若々しいけど、御年おいくつなのかしら?)

そう思っていると、理事長が芽衣にワインを勧めた。

「イスラメイちゃんも飲む?美味しいんだよ、ここのワイン」
「あ、いえ。せっかくですが私、お酒を飲んだことがないので」

するとガチャッと音がして、皆は振り返る。

聖がナイフとフォークを皿に落としていた。

「どうした?聖」
「いや、別に。何も」
「おかしなやつだな。イスラメイちゃん、試しにちょっと飲んでみたら?案外イケる口かもしれないよ?」

理事長に言われて芽衣は「そうでしょうかね?じゃあ、少しだけ飲んでみようかな」と空のワイングラスを差し出した。

「ちょっ、待て!いかん、やめろ」

慌てて止める聖に、またしても皆で首を傾げる。

「なんでそんなに焦っとるんだ?」
「いや、別に。けど、ほら……。そう!じいさん、大事な話があるんだろ?」

聖は思い出したとばかりに声を張る。
理事長も、そうだった!と頷いた。
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