恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
レジデンスの隣人

 暗闇の中で雷鳴を聞いていると、いつも幼い頃の自分を思い出す。

 本当は雷が大の苦手で音を聞くだけで震えてしまうほどなのに、私はいつも強がっていた。

『大丈夫、怖くないよ』

 ふたりの弟にそう言い聞かせる、しっかり者のお姉ちゃん。家庭内での私の役割は、いつもそんなふうだった。

 自分が誰かに守られるべき存在だなんて思ったことがなかったし、大人になった今でも、周囲に頼るくらいなら自分ひとりで解決する道を選ぶ。

 それは仕事でも恋愛でも同じ。ただし恋愛において、私のこの性格はマイナスに作用することの方が多かった。

 甘え下手な私に交際相手がうんざりし、最終的に別れを告げられる。

 そんなパターンばかりで、似たような失敗を繰り返すうち、もう恋なんて縁がないのだろうとあきらめていたはずだった。

 ――けれど。


「俺が怖い?」
「……いいえ」
「じゃあ、もう少しだけ、このまま……」

 背中に回された逞しい腕。耳朶をくすぐる穏やかな声。

 彼に抱きしめられていると、大嫌いな雷鳴も停電で闇に包まれた部屋も、不思議と怖くなかった。

 マンションの隣人、かつ会社の先輩。それ以上の関係になりそうでならない、微妙な時期だった。

 彼に惹かれそうになっている自分を窘め、それでも成長が止まらない想いを持て余し困っていた。

 そんなタイミングでの温かい抱擁に、安心感だけではないなにかが私の胸をノックする。

 いい加減自分の気持ちを認めなさい、とでも言われているようだった。

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